Jをめぐる冒険BACK NUMBER
勇敢なミシャ札幌、川崎との大激闘。
2019年ルヴァン決勝に敗者はいない。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/10/28 18:00
決勝後、激闘を終えた後の札幌イレブン。準優勝に終わったとはいえ、チームメートをいたわる様子は美しい光景だった。
伏線となった1年前の「0-7」。
怖がらずにパスを繋ぎ、ときに鋭利なカウンターを繰り出し、勇敢に攻め込む――。
それこそが、昨シーズンに就任したミシャが、どちらかと言えば、守備的なスタイルが定着していた札幌に植え付けたものだろう。ボランチの荒野拓馬が証言する。
「今日は立ち上がりから自信を持って、しっかり繋げた。その後、ロングボールが多くなったので、後半が始まる前に『もう一回、しっかり繋いでいこう』と話し合った。ミスもありましたけど、みんなが頑張って繋いだ結果、いいゲームになったと思う。ミシャさんが自信というものを、チームにもたらしてくれた」
実は1年前、札幌はリーグ戦で川崎に対して0-7という、目も当てられない大敗を喫している。これだけボコボコにやられれば、苦手意識を抱いてもおかしくないが、むしろ、得たものが多かった、と荒野は振り返る。
「あの試合も序盤は僕らのペースで、決定機が3、4回あった。それを逃しているうちにビルドアップのミスを狙われ、失点を重ねてしまったけど、崩されたという感覚はなくて。むしろ、ミスを減らしてトライし続けることが大事という考えになった。その結果、今季は8-0で勝った試合もあるし、今日もいいゲームができたと思うんです」
この日、好ゲームが生まれた背景には、1年前の大敗が伏線として張られていたわけだ。札幌の成長という点において。
アカデミー出身が4人先発の札幌。
札幌にとって、大きな希望となるのは、アカデミー出身の選手たちがこのファイナルに4人も先発したことだろう。
26歳の荒野、24歳の深井一希、23歳の進藤亮佑、21歳の菅大輝。
早くも前半10分に、菅が右足でダイナミックに先制ゴールを叩き込めば、1-2で迎えた後半アディショナルタイムには、深井がまさに起死回生の同点ヘッドを決めた。
「ユース上がりの2人で点を取れたので、下部組織の人たちに大きな自信を与えられたんじゃないかな、って思います」と後輩たちを思って菅が言う。