鮮やかなFKを叩き込んだ福森の交代。

　土壇場で札幌が追いついたゲームは、川崎から札幌に移籍して才能を開花させた福森晃斗が延長前半9分、自慢の左足で直接FKを突き刺し、札幌が逆転に成功する。

　だが、すでに足が攣っていた福森は延長前半終了後、交代を余儀なくされた。

「あれで潮目が変わったと思う」と振り返ったのは、中村だ。

「（谷口彰悟の退場で）こっちは10人だから、相手にセットプレーを与える機会も増えるでしょう。やっぱりフクはいいボールを蹴るから怖い。あの交代は大きかった」

　その後、ひとり少ない川崎がさらに追いつき、福森に代わって出場した石川直樹がPK戦で失敗するなど、複雑に絡み合った因縁と勝負のアヤも、この試合を一級のエンターテインメントに昇華させた要因だろう。

地方クラブのハンデを乗り越えて。

　この日の朝、新千歳発、成田行きの始発便が欠航となるアクシデントがあった。札幌サポーターの中には、スタジアムでの観戦を断念した方もいれば、レンタカーや新幹線などを利用して、埼玉スタジアムまで何とか辿り着いた方もいたと聞く。

　改めて思うのは、地方クラブの抱えるハンデだ。試合会場に乗り込むのに、それだけの時間と労力が掛かる。それはファン・サポーターだけでなく、もちろん、選手たちにとっても。だからこそ、11年前の大分トリニータの戴冠も、今回の札幌の準優勝も、その価値はいっそう増すというものだ。

　2ゴールを奪った川崎の小林悠の言葉は、札幌のすべての関係者を勇気づけるものだろう。自身も2度、カップ戦決勝で涙をのんだキャプテンは、こんなエールを贈った。

「すごく悔しい経験をしてきたぶん、負けたチームのことを、ちょっと考えちゃいますよね。ああ、自分たちもこうだったなって。ただ、こういう悔しさが人を強くすると思うし、自分たちもそうやって強くなってきたところがあるので」

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