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ベスト8の戦いはやはり未知だった。
南ア戦でジャパンが持ち帰った経験。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/10/24 11:50
南アフリカのディフェンスは最後まで統率が取れていた。日本にはまだ、やれることがあるのだ。
田村優を襲ったアクシデント。
チームの戦略をもっとも理解する田村優が前半に肋骨を痛め、ハーフタイムには痛み止めの注射を打つなど、治療を優先させなければいけなかった。田村はいう。
「注射を2、3本打ちました。喋るのもキツい状況だったので」
攻略のためには、いつにも増してコミュニケーションが必要とされていたが、司令塔の負傷は少なからず痛手となった。
日本としても攻略の糸口は見えていた。しかし、それは南アフリカと比べて繊細さが求められ、難易度が高かったと言わざるを得ない。
ハーフタイムで差が生まれたとすれば、それは「単純」と「複雑」という差だったのかもしれない。
南アにとってはトーナメントが本番だった。
正直、前半を終えた時点では、記者席で見ている限りでは、「後半の後半に南アフリカはバテるはずだ。行けるのではないか」と思っていた。
しかし、後半は南アフリカのパワーが日本を屈服させた。
日本はスクラムでペナルティを犯し、モールで蹂躙され、トライを奪われた。
これが南アフリカの底力か……。
感服してしまうほどの強さだった。
準々決勝に進出したことで、これまで知らなかったことが顕在化した。優勝を狙うチームの戦い方を、首脳陣、そして選手が体感したことだ。
策士であるエラスムスHCは、プールステージでも選手を休ませながら戦いを続けていた。準々決勝からが本番である、と。
しかもリザーブ8人のうち、FWを6人も用意していた(通常は5人)。この意図をヘッドコーチはこう語った。
「重たい人間は走っているとつかれるものです。日本のスピーディな仕掛けで、FWが疲弊することは分かっていました。そこでフレッシュなFWで後半を戦い抜こうと考えていたのです」
用意周到だった。そして31人のスコッド全体、ベンチを含めた物量の勝利でもあった。