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再び熱を帯びるフランクフルト。
熟練リベロ長谷部誠から始まる魔法。
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph byGetty Images
posted2019/10/24 11:40
ドイツ代表のホープ、ハフェルツ(中央)を押さえ込んだ長谷部誠。アグレッシブな守備で自由にプレーをさせなかった。
ロングボールも選択肢の1つ。
ピッチ上の指揮官としてのタスクがこれまで以上に求められることを、長谷部は自覚している。
「もちろん今日のようなプレッシャーを掛けてくる敵とか、相手の出方によって、リスクを冒すところと冒さないところを考えてやっていかないといけないですし、そういうゲームをコントロールすることは、自分の中でやらないといけないと思っています」
ここで重要なことは、チームが「よりサッカーをする」ことを意識しているからといって、何が何でも後ろから繋ぐ必要はない、ということだ。後ろからパスを繋ぐことにこだわるあまり、相手の思う壺にハマってしまうようなら、ロングボールも選択肢の1つになる。
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長谷部は、今回のレバークーゼン戦で、次のようなことを意識したという。
「今日の試合では、相手が結構前からプレッシャーを掛けて来ました。自分に対してもすぐにプレッシャーが掛かって来ていたので、繋ぎ過ぎてミスを犯してショートカウンターを食らうことは、それは相手の狙いでもあるので、ちょっと避けたいとチームでも話していました。
レバークーゼンが結構前から来るので、その分、相手の後ろとウチの前が数的同数になったりしていたので、1点目のシーンもそうでしたけど、一本裏を狙ったら結構チャンスが作れるかな、とは思っていましたね。後半はリードしていたので、そこまでリスクを冒してゲームを後ろから組み立てることは、ちょっと避けてプレーしました」
天候を読むように「組み立てる」。
ハイプレスが持ち味の相手に対して、長谷部はあえて繋がず、簡単に蹴るところは蹴っていた。そして「より良い組み立て」のためには、敵の戦術や試合の状況だけでなく、同じピッチに立つ味方のタイプも考慮に入れるという。
「後はやっぱり、どの味方の選手が試合に出るかですよね。例えば今日はバス・ドストが出ましたけど、長身の彼が出たらちょっとロングボールを当ててもいいと思うし、足元の技術のあるダイチ(鎌田大地)が出たら、もっと中盤でサッカーができると思うし。今日は機動力で勝負した部分がありましたし、試合に出ている選手によってゲームの組み立て方を変えていくことは、自分の中で意識してやっています」
晴れたと思ったら雨が降り、雨が降ったと思ったら晴れ間が広がる、そんなドイツの移り気な秋の天候の先を読むかのように、長谷部は「ゲームを後ろから組み立てる」。刻一刻と状況が変わっていく試合の中で、複数の要素を考慮に入れながら「ゲームの組み立て方を変えていくこと」は、口で言うほど簡単なことではないだろう。
それも無数の場数を踏んだベテランならでは、35歳の熟練のリベロだからこそ成し得る業と言うべきか。
神がかったビルドアップで長谷部がピッチに“魔法”を掛ける時、アイントラハトの快進撃が、再び始まるはずだ。