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再び熱を帯びるフランクフルト。
熟練リベロ長谷部誠から始まる魔法。
posted2019/10/24 11:40
text by
本田千尋Chihiro Honda
photograph by
Getty Images
“魔法”の夜が甦った。難敵に完勝すると、長谷部誠は静かに手応えを口にした。
「もちろん危ない場面も作られましたけど、今日は守備の意識を高く保って、チャンスもある程度作れていた。そこを逃さず点を決めていけば、どこが相手でも勝てるんじゃないか、という感覚はあります」
幼い男の子から歳を重ねた老女まで、アイントラハト・フランクフルトを愛する者たちが声を振り絞って紡ぎ出す、熱に浮かされた夜。昨季、ベスト4まで突き進んだヨーロッパリーグの戦いで生まれた熱狂が、再びスタジアムを覆ったのだ。
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10月18日、澄んだ闇夜に煌々と明かりが灯るコンメルツバンク・アレナ。
ブンデスリーガ第8節、対バイヤー・レバークーゼン戦。代表ウィークが明けて「1発目」の試合で、アイントラハトは前半からギアをトップに入れ、飛ばしに飛ばした。
チームの最後尾に鎮座する長谷部が振り返る。
「とにかく前半の最初からツバイカンプフで相手に好きなようにやらせない、ということがミーティングで話し合った今日の絶対的な約束事でした。個々の能力が高いレバークーゼンのような相手に対しては、しっかりとアグレッシブに行かないといけない。そういった戦う姿勢は、みんな出せていたと思います」
4分にゴンサロ・パシエンシアが先制して電撃的なスタートを切ったアイントラハトは、その後も全く足を止めない。攻めに攻めた。左サイドではフィリップ・コスティッチが、その「機動力」で対面するミチェル・ヴァイザーを何度も食いちぎった。17分には、自ら獲得したPKをパシエンシアが決めて追加点をもぎ取る。誰もが闘志を剥き出しにして「ツバイカンプフ」=1対1の局面を制し、レバークーゼンを圧倒した。
20歳のホープとマッチアップ。
長谷部によれば、敵の“弱点”は明らかだったという。
「個々の選手を見れば非常に上手い、能力の高い選手が揃っていますけど、激しく戦ってくるチームを苦手にしている部分がレバークーゼンにはある。それは分析からはっきりしていました。その相手の嫌がることを体現したと思います」
長谷部自身、試合中に何度か迎えたカイ・ハフェルツとのマッチアップを制した。20歳のドイツ代表のホープを、35歳の熟練の日本人リベロが封じ込む。まだまだ若いヤツには好き勝手にやらせない――。長谷部の戦う姿勢からは、そんなアグレッシブな気持ちが伝わって来るかのようだった。
「彼はリーチが長いし、飛び込むとかわされる。相手を引き寄せてパスを出すとか、ドリブルで抜くとか、独特のリズムを持っているので、なかなか簡単には抑えられないですけど、彼も激しく来る相手を苦手としている。今日はアグレッシブな姿勢を中盤、DFの選手たちを含めウチのチームが体現してくれたと思うので、そんなに決定的なチャンスは作らせなかったと思います」