サムライブルーの原材料BACK NUMBER
岡田武史の理念を実現する橋本英郎。
FC今治のJ3昇格を引っ張る40歳。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byFC Imabari
posted2019/10/03 11:30
橋本英郎の目はピッチ内で起きていることを見渡し、ピッチの外にまで向かっている。
もっと精度を上げて剥がしていける。
目には目を、フィジカル勝負にはフィジカル勝負を。
我慢比べを制すには、相手の土俵で戦いつつ自分たちの土俵に引きずり込まなければならない。この点が去年までの今治には欠けていたのかもしれない。
相手以上に走る、体をぶつける。ベテランのボランチがそれを先頭に立って実践する。
橋本は周りと連係してボールの回収に励み、攻撃に転じれば2トップにボールを預けて「つなぎの導線に自分が入っていく」イメージで相手を逆にパスワークで押し込んでいく。
ロング戦法を封じて、崩したシーンは何度かあった。後半に入って2つのPKを含めて3ゴール。自分たちの土俵に引き込むゲームにできたのも、攻守においてまさに「司令塔」となった橋本がいたからだ。
だが試合後はウーンと難しい顔を浮かべる彼がいた。
「でも、もうひと越えいきたいんですよね。その精度がまだ高くない。相手のバイタルエリアが空いていたので、もっと落ち着いて(ボールに)食いつかせることができたらとは思いました。1つずつ相手を剥がせていけば、最終的には向こうは(数が)足らなくなる。全然できるとは思うので、そこは突き詰めていかないといけない」
満足はまったくできないが、何とか自分たちのやりたいことをやろうと努めている。その仕草は一方で充実を表わしてもいた。
遠藤保仁と共有する、差をつける時間帯。
徐々に自分たちの流れに引き込んでいく術は、何となく遠藤に似ている。
思いどおりにならなくて当たり前くらいの余裕感。バタバタせず、我慢しながら、自分を、自分たちを見失うことなくプレーする。
以前、遠藤がこんなことを語っていた。
「後半15分ぐらいから40分ぐらいが一番楽しいし、面白い。相手も疲れて集中力も途切れてきて、分かっていてもついていけなくなってきますから。判断、技術の差が出やすい時間帯。そこで賢く考えられる選手でありたいという思いは変わらないです」
長くプレーしてきた同い年の元チームメイトの言葉を橋本にぶつけると、同意するように深く頷いた。
「分かりますね、その言葉の意味。後半途中から終盤にかけては、確かに差が出やすい時間やと思います。心の余裕をどこまで持って、どう相手を崩していけるのか。僕もありますよ、“後半こっからや、楽しめんのは”って思うことが。秋になって暑さや湿度もなくなってくるので、これからもっと楽しめるんじゃないかって思いますね」