球体とリズムBACK NUMBER
CLで最もゴールを奪ったアジア人、
ソン・フンミンの「ごめん」秘話。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2019/09/17 15:00
昨シーズンのCL準優勝はソン・フンミン抜きではなし得なかった。今度こそトッテナムに栄冠をもたらせるか。
根底にある厳しい父の教え。
時間があっても、何度呼びかけても、素通りする選手はいる。
でもソンは違う。
どれほど有名になって、目にする景色が変わっても、他者を敬う気持ちは忘れない。
ADVERTISEMENT
「もし君が良いフットボーラーでも、他の人に敬意を表せなければ、何者にもなれない」
元プロ選手だった父の教えだ。今年3月に『ガーディアン』紙にソンはそう語っている。厳しい父はソンが少年だった頃、息子に4時間のリフティング──もし一度でも落とせばやり直させたという──を課し、「3時間を過ぎた頃には、(充血した目を通して)地面が赤く染まっていた」という。
ただしその厳格な父を含む周囲のサポートがあったからこそ、今の自分があると自覚しており、年間700万ポンド超のサラリーを受け取る現在も、両親と一緒にロンドンで暮らしているそうだ。
「才能だけでは、プロでやっていけない」と謙虚に語るソンは、マウリシオ・ポチェッティーノ監督との出会いにも感謝している。
「素晴らしい指導者と出会うことや、運も重要だ。彼(ポチェッティーノ)のもとで、僕は驚くほど成長できた」
飛躍のシーズンで味わった悔しさ。
タイミングよくマークを外してボールを受けると、即座にトップスピードで駆ける。最高速度でも技術が落ちることはなく、広い視界を確保できているから、寄せてきた相手の逆を取れる。両足を遜色なく使いこなし、長い距離を走った後でも、冷静にシュートをゴールに収める──ちょうど昨季のチームベストゴールのように。
今春に開場したトッテナムの新本拠地で、最初にゴールを奪ったのもソンだったし、チャンピオンズリーグでのこけら落としでも、彼が最初にネットを揺らしている。昨季が彼の飛躍のシーズンになったのは間違いない。
ただし、最後の最後に苦い思いを味わったのも事実だ。プレミアリーグの第37節に相手を突き飛ばしてレッドカードを受け、チャンピオンズリーグ決勝ではリバプールにスコア(0−2)以上の完敗を喫した。