才色健美な挑戦者たちBACK NUMBER
今も現役! 谷川真理が語る
「走るとは人生を充実させること」
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byYuki Suenaga
posted2019/09/11 11:00
走れば走るほど発見がある。
走ることは、人生をより充実させる手段だと思っています。
走っている時に見える景色や匂い、風がだんだん冷たくなってきたなとか、五感でいろいろなことを感じられるのもひとつ。
レースを走っているときは苦しい時間もあるけれど、その日のために一生懸命練習をしてきて、ゴールをすると、大きな達成感や満足感を味わえる。
いつもの食事も普通においしいけれど、目標を達成した後の食事はやっぱり違います。
レース前は練習をすればするほど緊張するけれど、日常生活では味わうことができない緊張感でさえ走る醍醐味だと思える。
大会では、たくさんの知らない人が応援してくれます。日常ではそんな経験をすることもないし、応援をしてもらえたからこそ最後まで走れることも多い。
あとは新しい自分に出会えること。走れば走るほど、自分の体って意外と走れるんだってことを知れる。こんなに頑張れる自分がいるんだなって発見もある。42.195kmを走ることなんて絶対に無理だと思うでしょ? でも、絶対できないと思っていたら多分できないままだけど、ちょっとやってみようと軽い気持ちさえあれば、少しずつ走る距離やスピードが伸びていくんです。
歳をとると体力は衰えていくものだけど、50歳で初めてマラソンに出て5時間かかっても、もう少しだけ練習を頑張れば次に走る時にはタイムは縮まるんです。歳を重ねても頑張れば、自分の体は進化できるんだと実感できると思います。
その代表が中野陽子さんです。今84歳なのですが、走り始めたのはなんと70歳。初マラソンのホノルルマラソンを4時間44分で走られたことにもびっくりしますけど、今も走り続けていらっしゃって。しかも陽子さんは「早く歳をとりたい」っておっしゃるんですよ。それは年代別のカテゴリがひとつ上に上がるから。そこでまた世界記録を出したいと、キラキラした目で話されるんです。すごすぎて、本当に素晴らしいと思いますし、走り始めた頃の自分を思い出します。
好きな格好で、それぞれの楽しみ方で。
昔はマラソンって忍耐や根性というイメージばかり。でも私が皇居で走り始めた時って、格好良く走りたいという思いがあって。以前にサーフィンをやっていたので、サーファーブランドのトレーナーやハーフパンツを履いたり、ピンクのレッグウォーマーをつけたりしていました。当然目立つから、男性ランナーが意識して、どうにか抜かそうとハアハア言いながらついてくるんですよ。そのランナーを振り切って走るのが楽しかったです(笑)。今の私があるのは皇居で走られていた男性ランナーのおかげだと感謝しています。
トレーニングウェアじゃなきゃダメとかこだわるのではなく、自分の好きな格好をして、例えば普通のセーターとハーフパンツとか、ジーンズで走っているんだけど、実は速いよ、みたいなのが当時からやりたかったんですよね(笑)。ガチガチで競技でやっていますという感じでやりたくなかった。確かに練習は辛いですよ。でも走るっていうのはこんなに楽しいことなんだよっていうのを見てもらいたかった。これは今も同じです。
どんな走り方をするのか、何が楽しいのかは人それぞれ。でも、みんなが自分らしく走りを楽しむことで、「私も走ってみたいな」と思ってくださる方が増えたら、うれしいなと思っています。
谷川 真理Mari Tanigawa
1962年10月27日、福岡県生まれ。高校と専門学校を卒業後は一般企業で働いていたが、24歳の時に本格的にマラソンを始める。一躍トップランナーとなり1991年の東京国際女子マラソンで初優勝。その後バルセロナ、アトランタと五輪出場を目指すも日本代表には選出されなかった。現在も現役を続けつつ、イベントやメディア等に出演しマラソン普及活動を行なう。
新しいナビゲーターに俳優の田辺誠一さんを迎え、番組デザインもリニューアル。アスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。
第72回:谷川真理(マラソン)
9月13日(金) 22:00~22:24
元トップランナーの谷川真理さんは陸上のエリートではなく、異色の経歴の持ち主。56歳になった今も現役で走り続ける彼女が“生涯現役”を決めた出来事がありました。その時、谷川さんの胸に去来した想いとは? 番組では、今夢中になっている書道の腕前も披露してくれます。
第73回:鈴木彩香(ラグビー)
9月20日(金) 22:00~22:24
ラグビー女子日本代表として活躍中の鈴木彩香選手は若きリーダーとして競技の普及にも尽力しています。“人に頼ることを知らなかった”彼女を変えた、訪問先のニュージーランドでの気づきとは? そして思い描く理想の女性像とは? 30歳を迎えるラグビー女子の本音に迫ります。