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ガンバで発展途上の食野がマンCへ。
Jを揺るがす黒船の資金力と情報網。
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph byGetty Images
posted2019/09/02 11:30
まだ「期待の若手」クラスだった食野亮太郎すら徹底的に把握する。マンCの世界戦略はJリーグにも影響を及ぼしている。
シティにとっては育成の選手。
プロ3年目の食野は、既に年俸に上限がないA契約には移行していたが、その額は1000万円にも及ばない金額。必然的に移籍補償金の額も高額には設定されておらず、マンチェスター・シティは1億2000万円程度での獲得に成功している。
「僕らの評価と向こうの評価は違う。シティにとっては育成の選手みたいな感じて見ている。いいところがあるから連れて行こう、みたいな感じ」と話すのはガンバ大阪の育成部門の礎を築いた上野山信行取締役だ。
言葉は悪いが、豊富な資金力を持つ欧州の名門にしてみれば「当たれば儲けモノ」的な意味合いも持つのかもしれないが、もちろんマンチェスター・シティは思いつきで食野に白羽の矢を立てた訳ではなかった。
「強化部だけで17人ぐらいいて」
食野は言う。
「現地に行った時に、自分をスカウトしてくれた強化部の方と話をしたんですけど、今強化部だけで17人ぐらいいて、その人たち全員が僕の試合の映像を見てくれていた」
鮮烈なインパクトを残した5月11日のサガン鳥栖戦のドリブルシュートも含めて、マンチェスター・シティは彼のプレーを細かくチェック。さらに、チームが前線に宇佐美やパトリックを新たに獲得したことで、食野の出場機会が減りつつあったことも把握していた、とある関係者は言うのだ。
実際、関東圏にあるJリーグクラブの強化関係者もこう言い切る。
「シティにはアジア地区のスカウティングを担当している日本人がいる」
プレーはもちろんだが、選手が置かれているチーム内の立ち位置まで丸裸にされつつあるのが今のJリーグなのである。
ガンバ大阪U-23が参戦するJ3リーグでは今季、2種登録のユース組を積極的に起用する、というのは昨年末に松波強化部長が掲げていた方針だ。若手の育成で手腕を発揮している森下仁志監督のもと、既に新世代のホープがJ3リーグで存在感を見せ始めている。
だからこそ、クラブが着手すべきは原石の保護であることを松波強化部長も認識する。
「唐山(翔自)も世代別の代表に選ばれているし、中村(仁郎)もいる。J3に出ているとDAZNで見られるので色々と注目されているとも聞いている」