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「2020」の日本のクライミングが見えた!
11日間の激闘に幕。“世界選手権まとめ”。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO
posted2019/08/31 11:00
東京・八王子で開催された世界選手権で五輪内定を決めた野口啓代と楢﨑智亜。
野口は成長の余白がまだまだある。
その陰に隠れて目立たないが、野口も着実にスピード種目での進化を遂げてきた。
今年2月のスピード・ジャパンカップの際に、タイム短縮のカギを訊ねると、「私の特長は保持力の高さですけど、スピードだとそれが足を引っ張っていますね。いかにホールドを持たずに登る感覚を身につけていくか。それができれば9秒台も見えてくる」と答えていた。
迎えた4月からの今シーズン、それまで11秒前後だった野口のタイムは、9秒台を安定してマークするまでになった。今回の世界選手権ではスピード予選で9秒478をマークしたが、これは昨年9月の世界選手権スピードで残した当時の自己記録10秒548よりも1秒も速い。
今回のコンバインドは「もともとスピードの順位勝負じゃない」と、スピードの順位の低さをボルダリングとリードでカバーした野口だが、来夏を見据えれば、まだまだスピードには成長の余白は残されていると見ていいだろう。
楢﨑もスピード種目に余力を残している。コンバインドのスピードでは順位を取りにいくために安定した登りを優先させているが、スピード単種目の予選後に次のように語っていた。
「5秒台を狙いたいが、それだとミスをする危険性も高い。チャンスがあれば全力を試したい」
その言葉通り、コンバインド・スピードでファイナルまで勝ち上がると、隣のレーンを登るスピード専門選手に全力勝負を挑んだ。結果は足をホールドから踏み外して敗れたものの、ここからの1年間で精度を高めていければ、今回のコンバインド・スピード2位の結果を上回る可能性は大いにある。
楢﨑「このメンツで2位は自信になった」
両選手がもっとも得意にする種目のボルダリングは、昨年末のルール改正でコンバインド決勝のボルダリング課題数が4から3に削減された。その影響が懸念されたなかで、今回は楢﨑、野口ともに8選手中1位を獲得して、日本選手最上位を手繰り寄せた。
だが、課題内容によって得手不得手が顕著にわかれる種目でもあるため、「苦手を潰しながら強化したい」という楢﨑はもちろん、野口もさらなる強化を視野に入れている。
今大会のコンバインド決勝リードを、楢﨑は「このメンツで2位は自信になった」と振り返り、野口はリード3位ながらも「2種目をやって疲れ果てていて、完登するだけの力が残っていなかった」と漏らした。両選手の手応えは対極にあるが、この種目の強化がここからの1年で最大のポイントになることは共通している。
今季は持久力を高めるため合宿を張るなど、両選手とも精力的にリードのレベルアップに取り組んできた。それを今後も継続していき、この種目で波乱を起こすレベルに至ったとき、もっとも輝くメダルがふたりの首に飾られるはずだ。
「準備に使える時間が多いので、より完全な状態で狙いたい」
これは優勝した楢﨑智亜の言葉だが、野口も同じ内容のコメントを残している。両選手は来夏まで「長所の最大化」と「弱点の克服」に専念する時間を手にした。