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2012年、イチローが日本開幕戦で、
一言も肉声を残さなかった深い理由。 

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石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2019/08/27 11:40

2012年、イチローが日本開幕戦で、一言も肉声を残さなかった深い理由。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

現役最後となった試合から7年前。同じ東京ドーム、同じアスレチックス相手に、イチローはグラウンドで躍動していた。

川崎宗則に話していたこと。

 メジャー12年目のシーズンが日本で開幕した。イチローはいきなり4安打を放つ。
「特別な日でした。カッコはついたかなって感じです。経験したことのない、日本での開幕という特別なゲームで、どういう心の動きがあるのかは想像もつかなかったのですが、フィールドに立ってみると、アメリカで開幕するときの緊張感とはまったく別の、得も言われぬ緊張感がありました」

 じつは、今年のイチローに驚かされたことがある。打席での立ち位置が、極端にキャッチャー寄りになっているのだ。しかも、左足はバッターボックスのラインをまたいで、外に出てしまっているのではないかと思うほど、キャッチャー寄りだ。

 今までのイチローは、踏み込んだ右足がバッターボックスから逆に前へ飛び出してしまいそうなくらい、ピッチャー寄りに立っていた。この立ち位置の違いは衝撃的だった。キャンプ中、イチローが川崎宗則にこんな話をしていたことがあった。

「タイミングを合わせて、足をあげる。その始動は早いほうが修正がきく。こっちではゲームのとき、押し込まれるようなボールの重みを感じるから……もちろん、今でもそうだよ」

自分のセンスを信じるということ。

 ボールに押されないように、始動を早くして立ち遅れないようにする。そのために、キャッチャー寄りに立ってボールとの距離をとり、最初から左の股関節に重心を乗せておく。イチローは「スイングの仕方は変えられませんからね。考え方としては、ある動きを省いている、ということです」と説明していた。ある動きとは、ピッチャーが投げ始めてから左に体重を乗せるのではなく、構えた時点から左に乗せておく、そのことを指しているのではないだろうか。

 去年の結果は、年齢による肉体的な変化が原因なのかもしれないし、それ以外の何かなのかもしれない。ただ、結果として立ち遅れていたとしたら、今シーズンは立ち遅れることなく、しかもピッチャーのボールに押されないよう、探し求めた答えの一つが、ボールとの距離がうまく取れる、この立ち位置だった。このオフの間、どんな想いに突き動かされて過ごしてきたかと訊いたとき、イチローはしばらく黙って、こんな言葉を絞り出した。

「自分がやりたいようにやる。自分のセンスを信じるということです」

【次ページ】 自分の国だなぁって気持ちになるね。

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