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甲子園取材では声より表情を見る。
球児の“ほんとの顔”が知りたいのだ。 

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/08/14 07:00

甲子園取材では声より表情を見る。球児の“ほんとの顔”が知りたいのだ。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

甲子園で活躍すればヒーローになる。ただし彼らはまだ10代の高校生。質問に答える表情にこそ、人となりが見えてくるのではないか。

「プロ注」だった投手の取材後のこと。

 いずれどこかで、その選手が成長したとき、その答えに触れるような報道に接すれば、それでもよいし、わからないままでもよい。

 Q&Aによって事実を1つ1つ確認していくのが「取材」なのだろうが、私には、表情のちょっとした変化を見つめながら、その中にときどき垣間見える「ほんとのところ」を嗅ぎとることのほうが興味深い。

 この仕事を始めた新米の頃に、こんなことがあった。

 関東で「プロ注」として話題になっていた高校生投手の取材に行ったときのこと。

 すごくにこやかに、フレンドリーな態度で話をしてくれて、口調もハキハキと敬語も使いこなし、「いいやつじゃないか!」とすっかりファンになって、「連れて帰りたいね……」なんて思いながら、トイレで用をたしていた。

 すると、そうとは知らずに通りかかった彼の、下級生をののしる言葉づかいとその調子に、なんだこりゃと驚いた……というより、悲しくなったことがある。

 人に裏とオモテがあるのは当たり前で、自分自身だってそうなのだが、高校3年の17か18で、そこまできれいに大人をだますか……と貴重な経験というか、よい勉強になった。

 どんなことになるのかなと、ずっと気にしていたのだが、ドラフトで指名されてプロに進んだ後、何年かファームにいただけで、いつのまにやら消えていった。

作り笑顔だった高校生のインタビュー。

 質問に答えたあとに、必ずニコッと「作り笑顔」を添えてくれたある高校生は、最後まで自分の言葉では答えてくれなかった。

 自分の中に用意している答えの中から、いちばん近そうなものを探して返してくれる……表面上はとても「きれい」なインタビュー取材だったが、実のところは、なんとも空虚なQ&Aになった。

 嫌われないように、失敗しないように。内心、恐るおそるなのが伝わってきてしまったから、こちらのほうが気の毒になってしまって、いつもより短くインタビューを終えたことを覚えている。

 あとで教えてくれる人がいて、彼がまだ幼い頃に、ご両親が不幸な別れ方をしたという。

【次ページ】 「ほんとのところ」に迫りたいから。

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