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ブラバンの名門取材で見えてきた、
高校野球応援に傾ける愛情と熱量。 

text by

梅津有希子

梅津有希子Yukiko Umetsu

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photograph byYoichi Nagano

posted2019/08/08 18:00

ブラバンの名門取材で見えてきた、高校野球応援に傾ける愛情と熱量。<Number Web> photograph by Yoichi Nagano

今春のセンバツを盛り上げた習志野高校の“美爆音”は、この夏もアルプススタンド響き渡る。

大阪桐蔭だからこそ可能なクオリティ。

 大阪桐蔭は数年前から甲子園で『ウィリアム・テル序曲』を演奏している。この曲をやるようになったきっかけをたずねると、「『名曲アルバム』を観ていて、応援に使えるんじゃないかと思った」という。クラシック音楽番組をながめている時でも、頭の片隅には野球応援があるのだ。

 頭の「パーン! パカパーン!」というトランペットのファンファーレは当然ながら、後に続くクラリネットやバイオリンのメロディを、「クラリネットが吹いても甲子園では聴こえないから」と、トランペットに吹かせる。

 私も楽器経験者だからわかるが、あの細かい旋律をトランペットに吹かせるなど、相当に無謀だ。だが、梅田氏は「トランペット、これ吹けるか?」とやらせる。そして、トランペットパートの生徒たちも、これまた吹けてしまう(すごい……!)。そう、これが大阪桐蔭クオリティなのだ。

 ちなみに『ウィリアム・テル』はかつての「オレたちひょうきん族」のオープニングテーマ。この曲が流れると、「あ! 『ひょうきん族』だ!」とアラフォー以上の観客が喜ぶのもよく見る光景だ。

 コンサートでも野球応援でも、いつも何か新しいことを考えている大阪桐蔭吹奏楽部。今年は惜しくも本大会への出場は叶わなかったが、また甲子園で再会できることを願っている。

甲子園で吹いてみたかった。

 クラスメイトや学校の仲間を全力で応援できるのは、人生でたったの3年間。

 中高時代熱心に吹奏楽に打ち込みながらも、縁がなくて野球応援経験のない私としては、生徒たちが心から応援する姿を見るたびに、「ああ、わたしはコンクールばかりがんばってきた青春時代だったなあ……。あの頃に野球応援をする機会があったなら、どんな大人になっていたのだろう」と、ふと考えることがある。

「吹奏楽部が応援に来てくれてうれしい」「打てる気しかしない」と喜ぶ野球部員の声を聞くと、「吹奏楽にこんな力があったんだ!」「野球応援っていいなあ……」と、しみじみと思うのだ。

 101回目の夏も、全出場校の応援を観戦すべく甲子園に通う日々。「音楽の力」で野球部を応援する吹奏楽部の生徒を見て思う。ああ、わたしも甲子園で吹いてみたかったなあ……。

Number984号「甲子園旋風録。」掲載の「ブラバン甲子園 旋風のアルプス」では、3校への取材を通して見えてきた甲子園でのブラバン応援の魅力の正体が描かれています。これまでアルプスを沸かせてきた曲を紹介する「ブラバン流行曲BEST9」も合わせて、ぜひご覧ください。
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