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「2020」に向けた戦いが、日本で初開催。
注目のトップクライマーたちを一挙紹介。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph bySytse van Slooten - IFSC
posted2019/07/31 11:00
昨年オーストリアで行われた世界選手権。今夏は東京・八王子で開催される。
ボルダリングのみ挑戦するベゾニク。
白熱した争いが期待されるのが男子だ。前回大会王者の原田海や、今季W杯ボルダリング年間王者の楢﨑智亜、今季年間ランク5位で経験豊富な藤井快など、日本勢は誰が優勝しても不思議ではない。海外勢もアダム・オンドラ(チェコ)を筆頭に、チョン・ジョンウォン(韓国)、ヤン・ホイヤー(ドイツ)、イエルネイー・クルーダー(スロベニア)、アレクセイ・ルブツォフ(ロシア)などの実力者が顔を揃えている。
ただ、彼らは東京五輪の出場権に照準を合わせているので、コンディションのピークを大会前半に合わせる可能性は高くはないだろう。そのため、ボルダリングにのみ出場する選手が台風の目になることが予想される。
その一人目として注目したいのが、グレゴール・ベゾニク(スロベニア)。今季のW杯ボルダリングは3戦のみの出場で年間ランク15位だったものの、昨季はW杯ボルダリングで初優勝するなど年間ランク5位。昨年の世界選手権の同種目で3位になったスペシャリストだ。
ボルダリングは「体を使ったパズル」と喩えられることが多いが、実際には“正解ムーブ”は限られているケースがほとんど。そのなかにあってベゾニクは、他の選手とは違う発想から課題を攻略することに長けている。観客の予想を超える柔軟な思考からムーブを繰り出すベゾニクのパフォーマンスを見逃さないでもらいたい。
杉本怜、緒方良行も頂点を狙う。
単種目代表としてボルダリングに出場する杉本怜、緒方良行もメダルの有力候補。両選手ともコンバインドの日本代表は逃したものの、今季のW杯に与えられていた単種目代表の条件をクリアして晴れ舞台への道を切り開いた。
今季W杯ボルダリングの開幕戦で3位になるなど年間ランク11位の杉本が、この大会にかける思いの強さは想像に難くない。昨季はW杯ボルダリングで5年ぶりに優勝するなど年間ランク3位になったものの、前回の世界選手権ボルダリングでは予選敗退。さらに今大会はコンバインド代表の座を逃しているのだ。世界トップレベルの実力を持つ杉本が雪辱を果たす姿を期待したい。
緒方良行は、ピンチ系ホールドで発揮する圧倒的な保持力と、日本男子選手のなかで屈指の身体能力の高さを持ちながら、昨年までは大舞台になるほど勝ちたいという気持ちが空回りして、なかなか本領を発揮できずにいた。
しかし、メンタル面の弱点克服に取り組んだ今季は、W杯ボルダリングのロシア・モスクワ大会で3位、最終戦のアメリカ・ベイル大会では念願の初優勝を果たして、年間ランク3位になった。昨年の世界選手権ボルダリングでは同じ神奈川大の1年後輩である原田海が金メダルを獲得したのに対し、緒方は15位。今大会では眩いスポットライトの独占を狙っている。