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世界水泳のトラブル対応で見えた、
入江陵介が長年トップで戦える理由。
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph byAFLO
posted2019/07/24 08:00
スタート器具につかまる入江陵介。長年トップで戦ってきた選手にとっては、今回の騒ぎは1つの要素でしかないのだろう。
トラブルに動じない心が入江の強さ。
確かに、2年に一度の大舞台であり、世界最高峰の水泳大会であることを考えたら、このような不具合やトラブルはないように準備しなければならない。しかし、100%完璧な運営ができる大会はないし、トラブルが起こる可能性をゼロにはできない。
大切なのは、そのトラブルにどう対処するか。そのなかで、自分が最大限力を発揮するためにどう準備すれば良いかを考えることだ。
スタートできなかったザッビオーニは抗議をして泳ぐことを諦めなかった。カーターもそれを見て抗議を行い、再度泳ぐチャンスを得た。泳ぐ本数が増えてしまったことは良くないが、それでも世界の舞台で決勝に進めるチャンスがわずかでも残されているなら、それに対して全力を尽くすのが最適解である。
少なくとも彼らはそうしたし、入江はそんなトラブルに動じず、使えないなら使わないだけ、とすぐに気持ちを切り替えてレースに臨んだ。酒井も同様だ。
世界で戦うマインドを示した。
自分が対応できないものに憤りを感じ、いつまでも不満を言っていても意味がない。天気が悪いことを嘆いていても、天気は変わらない。そんな嘆きに時間を費やすならば、自分ができる準備を淡々と進めたほうが効率的だし、結果にもつながる。それを入江は自然とやっていたのである。
厳しい言い方をすれば、その程度で心が乱されるようであれば、世界と戦うマインドではないことを自ら証明してしまっているようなものだ。
入江はバックストロークレッジが使えないことを前提として準備を進め、自分の泳ぎの精度を上げることに尽力した。入江が世界のトップ争いを長く続けていられる理由を目の当たりにした瞬間だった。
あらためて、この先選手たちに負担を強いるような不具合やトラブルが起こらないこと、起こさないことを切に願う。
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