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西野朗の次なる挑戦はタイ代表。
9年前の言葉から紐解く野望。 

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下薗昌記

下薗昌記Masaki Shimozono

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posted2019/07/22 11:55

西野朗の次なる挑戦はタイ代表。9年前の言葉から紐解く野望。<Number Web> photograph by AFLO

タイ代表監督に就任した西野朗氏。9月にはW杯予選、1月には五輪出場権を争うAFC U-23選手権に挑む。

会見で繰り返した「幸せ感」。

 タイ代表の指揮官として臨んだ会見で西野氏は「チームを率いる幸せ感」という言葉を2度繰り返した。

「サッカー監督は中毒性がある」「監督業は自分にとっての生きがい、やりがい」――。

 こんな言葉で現場へのこだわりを口にしていた西野氏だけに、タイからの誘いは渡りに船だったのだろう。

 では、何故西野氏はタイ代表を率いる決断を下したのだろうか。それはタイのサッカーについて語った「非常にポテンシャルがあるサッカー」という言葉に集約されるのだ。

「可能性だよね。今まである程度客観的に見ていた神戸や、なんとなく神戸へのイメージを作っていた中で、逆に知らない部分がたくさんあって、それに対しての自分のチャレンジでどこまで可能性を引き出せるかどうか。常勝チームではないけれども、昔から俺はそういうクラブには入っていないし、中位を上位にしたり、下位を中位にというチーム作りを志向したりするのが自分という人間でもあるからね」

 ヴィッセル神戸の監督に就任した直後、監督就任にあたってのこだわりをこう話した西野氏。

 ガンバ大阪を率いる際にも「可能性」に魅入られ、大阪の地での指揮を決意したというが、タイ代表が持つ伸びしろが日本屈指の名将の心を揺さぶったのだ。

「突貫工事」よりも「長期政権」向き。

「微笑みの国」での新たな挑戦――。

 しかしながら、西野氏を待つのは決して微笑みだけではないはずだ。「西野監督の経験を生かし、ワールドカップの日本代表のようにタイ代表を成長させ、レベルアップさせることを確信しています」とタイサッカー協会のソムヨット会長は、期待に胸を膨らませたが、タイサッカー協会の理解とバックアップは不可欠となる。

 ロシア大会でヴァイッド・ハリルホジッチ監督の後任として「突貫工事」に成功。勝負師としての手腕を再び見せつけた西野氏ではあるが、本来は日々、選手の適正やストロングポイントを見極めながら長期的なスパンでチームを作り上げる作業に長ける指揮官である。

【次ページ】 求められる“頭脳”の発掘。

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