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高橋光成が初めて首を振った瞬間。
「器用な投手」の枠を踏み越える。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byKyodo News

posted2019/06/30 09:00

高橋光成が初めて首を振った瞬間。「器用な投手」の枠を踏み越える。<Number Web> photograph by Kyodo News

西武が高橋光成にかける期待は大きい。今季から西口文也の13番を継承し、ここまでチーム最多の7勝をあげている。

変化球もクイックも上手いのだが……。

 一方の高橋は、ストレートの球速は153キロあるが、多彩な変化球も併せ持っている。右打者を翻弄する横のスライダー、左打者に向かって落ちるフォーク、右打者にゴロを打たせるスプリット、虚をつくタイミングで投げ込んでいく縦のスライダー、さらにスピードを緩めたカーブだ。

 そして、高橋の器用さはピッチングだけにとどまらない。

 投球以外の周辺動作にも非凡なものがあり、クイックは1.1秒を計測することもあり、牽制もうまい。4月7日の日本ハム戦では昨季の盗塁王・西川遥輝を牽制で刺しているし、韋駄天として知られる千葉ロッテの荻野貴司が「クイックも牽制も早く、(高橋から盗塁を)狙うとしたら、カウントで行くしかない」と言うほどだ。

 ただ、その器用さがそのままプラスになるかというと、必ずしもそうとは言えない。

「もっとストレートで押していかないといけない。クイックにしても、こだわりすぎてピッチングのスケールが小さくなってしまうのはよくないなと思います」

 5勝目を挙げたロッテ戦の試合後、高橋はそう語っている。

器用だからこそ、考えすぎる。

 この日の高橋はストレートとフォークが冴えていたが、1番の荻野に手を焼き、4度の出塁を許した。1回の二塁打は、先制点を献上することにつながった。3回、5回は失点につながらなかったものの、荻野の出塁に翻弄されていた。

 そして7回、2死からまた荻野の出塁を許すと、続く2番・鈴木大地の打席で、一塁走者の荻野に気を取られて制球を乱した。鈴木を歩かせ、さらに3番の中村奨吾の四球を与えたところでマウンドを降りた。

「ランナーを意識しすぎました。2死一塁で鈴木大地さんを迎えたところで切らなきゃいけないのに、荻野さんを意識しすぎてボール先行になってしまった。(スタイルが)変にまとまりすぎているなというのは自分でも感じています」

 器用であるがゆえに、多くのことを考えすぎてしまう。これはピッチングの組み立ても同じで、高橋だからこそできることが、逆に足かせになることさえあるのだ。ピンチになるとかわす変化球が多くなるのも同じ理屈だろう。

【次ページ】 菊池の足跡を辿り、自分を知った。

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