野球善哉BACK NUMBER
高橋光成が初めて首を振った瞬間。
「器用な投手」の枠を踏み越える。
posted2019/06/30 09:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
ようやく首を振った。
6月14日のヤクルト戦の8回表のことだった。
2死満塁でバレンティンを迎えた高橋光成は、1ボール2ストライクと追い込むと、捕手・森友哉のサインに首を振ってストレートを選択。バレンティンを渾身の153キロのストレートで中飛に抑えた。
「何としても抑えたい。力勝負したいと思った。1、2打席目は、逃げて逃げて、かわす投球で四球だったので、勝負したいなと思って首を振りました」
今季初めて勝負所で捕手のサインに首を振った。9回も投げ切り、3年ぶりとなる完投勝利は、高橋の持ち味が存分に出た快投劇だった。
今季の高橋を見ていて思うのは、まるでコピーのように先輩と同じ成長の階段を登っているところだ。
たとえば、投球フォームは、地面からの力を最大限に受けて2段をつけるモーションから始まり、前足で受け止めてパワーを生み出していく。今年1月、自主トレーニングで共に時間を過ごした菊池雄星の模倣だ。
さらに、試合終盤でのギアチェンジも菊池を見るかのようだ。
7日のDeNA戦では1点リードの6回裏、3番の宮崎敏郎から始まる主力打者のところでギアを上げて、2者連続三振を含む3者凡退。試合の流れを一気に引き寄せた。冒頭のバレンティンに力勝負を挑んだシーンは、菊池が、2017、2018年にエースとして見せた姿と酷似している。
菊池にはなかった高橋の器用さ。
高橋は今年から、菊池と同じパーソナルトレーナーと契約している。「昔の自分を見ているよう」と菊池が気にかけて始まった2人の師弟関係は、高橋が菊池を成功のモデルとして追いかけている。
そんな2人の成長過程を眺めながら、気づくことがある。同じような道程を歩んではいるものの、細部に目を向けると大きな違いがある。
それは、器用さだ。
「打たれた時に後悔したくないので、悔いのないストレートを投げる」
そう語っていた若い頃の菊池は、ストレートとスライダーを軸としたパワーピッチングが信条だった。2015年のオフあたりからカーブを習得して、2017年から配球に組み込むようになったが、それまではほとんど2球種で勝負する投手だった。
それほど菊池のストレートの威力は凄まじく、真っ向勝負を繰り返すことで磨きをかけてきた。