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スポーツクライミングの醍醐味が満載。
西条を熱くしたコンバインドの激闘。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byIchiro Tsugane
posted2019/06/28 11:00
3つ目のジャパンカップを制した“女王”野中生萌と大会2連覇を達成した楢﨑智亜。
選考基準の条件を満たした土肥と波乱の女子。
優勝争いとともに、Sランク以外で誰が世界選手権の代表権を手にするのかに焦点が集まったなか、男子は「世界選手権の代表のことはいったん忘れて、今日はボルダリングの1位だけを狙っていました」と語った土肥圭太が、スピード5位、ボルダリング1位、リード9位の総合45ポイントで4位となって選考基準の条件を満たした。
女子は波乱の結果となった。前日のスピードで8秒992をマークし、日本人女子では野中に次いで2人目の8秒台クライマーになった伊藤ふたばが、対戦形式のスピード1回戦でフォールして敗退。その後の順位決定戦で5位と巻き返したものの、前日1位になったボルダリングでも5位と苦戦し、リードも6位に終わって総合150ポイントの6位。この大会では世界選手権の代表になる条件をクリアできず、7月から始まるW杯リードの2大会に日本代表入りを持ち越すことになった。
一方で、打ち抜き水のように溜め込んだ力を放出して選考基準の条件を満たしたのが、3位の森秋彩であり、4位の谷井菜月であり、5位の倉菜々子だった。とりわけ倉は今季、得意にするボルダリングがW杯で結果が出ずに悔しさを溜め込んできた。この大会でもボルダリングは予選で14位、決勝8位。リードも決勝8位と奮わなかったものの、ほとんど練習していないスピードで、持ち前のフィジカル能力の高さを発揮して2位になったのが効いて、総合128ポイントで5位に滑り込んだ。
東京五輪によって転換期を迎えているスポーツクライミングは、地方自治体の理解と協力によって成り立っている面が少なくない。今大会の会場となった石鎚クライミングパークSAIJOは、 2017年の『笑顔つなぐえひめ国体』で、スポーツクライミング競技会場となったことがきっかけで、競技環境の整備を進めてきた。
JOC認定競技別強化センターとなり、国際規格のスピード壁が完成した昨年10月に本格オープン。迎えた今大会が地元の人たちの念願だった初めての大会開催とあって、西条のおいしいものや楽しさが満喫できる人気イベントを同じ施設内で開催。大会前のローカルテレビでの告知の成果もあって、冒頭のタクシー運転手は、「スピードとボルダリングとリードでしょ。今回でスポーツクライミングの3種目が何かかって、西条の人たちはもう覚えたよ」と得意げだった。
そうした開催地の熱い思いに応えるかのように選手たちは熱戦を繰り広げたが、これはまだ序章に過ぎない。各地で溜め込まれているスポーツクライミングの伏流水には、ここから本格的にパイプが打ち込まれることになる。代表選手たちが溢れさせる打ち抜き水が、来夏の東京五輪、さらにはその先のスポーツクライミング界の未来を大きく変えていく。