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バスケ育成年代の指導者が考える、
10代アスリートへの理想の指導とは。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2019/06/10 08:00
バスケットボールの育成年代指導に熱を入れる萩原美樹子(左)と鈴木良和。
リラックスしている時に話をする。
解決法は地道に尽きる。日々向上できるように促すしかない。そのためには一人ひとりとの人間関係を構築する必要がある。
「選抜チームですから、一緒にいられる期間は限られます。それでも、『このチームの一員でよかった』と感じてもらうためには短期間だからこそ工夫が必要です。基本は話すこと。ただ、10代の選手は机をはさんで面談という形になるとかしこまってしまう。私が大切にしているのは練習前や、夕食の席などリラックスしている時間に話をすることです」
こうして人間関係を作り、選手が成長するための課題を見つけ、解決の道筋を示すわけだが、『嫌われる勇気』の中では、スポーツの指導現場に直結する問題が提示されている。「課題の分離」だ。これは親、会社の上司という立場からも重要な命題といえる。萩原さんもこれまでの指導現場で、幾度となくこの問題に直面してきた。
「毎年向き合ってきた問題です。これまでの経験からすると、完全に分離するのは難しい。しかも、選手個人の性格によってアプローチも変わってくるので正解がありません。私もどっぷり選手にコミットして選手が成長していったケースもありますし、反対にコミットし過ぎて、選手が離れてしまったこともありました。課題の分離が出来なかったケースです」
「無論、体罰はもってのほか」
選手へのアプローチは指導者が悩むところだが、『嫌われる勇気』の中で哲人はこう言い放つ。
「無論、体罰はもってのほかですし、叱ることも認めません。ほめてもいけないし、叱ってもいけない」
アドラーは「見守る」という選択肢を提示しているのだが、それを履き違えると「放任」という結果を招きかねない。
「ある選手が課題を抱えていた時に、『それは彼女の問題だから』と放っておいてはいけないと思うんですね。指導者としては選手の課題だとは認識しつつ、どうその解決に関わっていくか、いや、寄り添っていくかが大切なんだと思います」
だからこそ、萩原さんは選手たちに問いかける。「どうして?」と。