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<大器を育てる指導哲学>
球界の港を開く。
花巻東・佐々木洋の挑戦。
posted2019/05/27 15:00

text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
Ryuki Matsuhashi
イリオモテヤマネコ――。
花巻東の監督、佐々木洋を観ていると、西表島に生息する国の特別天然記念物を思い浮かべてしまう。
花巻東は宮沢賢治の故郷、岩手県花巻市にある甲子園の常連校だ。大谷翔平(エンゼルス)、菊池雄星(マリナーズ)らの母校でもある。「野球後進県」の岩手で、同一高校から、近年、立て続けにメジャーリーガーが誕生したというのは奇跡的な出来事である。
イリオモテヤマネコは島の固有種で、現在、西表島に約100頭しか生息していない。夜行性で警戒心が強く、滅多に人前に姿を現さないことで知られている。
佐々木も同じだ。用心深く、滅多に取材を受け付けない。第三者に関する話ならまだしも、自分の事について語るとなると、なおさら臆病になる。
大仰な言い方をすれば、佐々木は高校球界に革命をもたらした。古今東西、無傷な変革者など存在しない。佐々木も例外ではなかった。佐々木の右腕というべき部長の流石裕之が説明する。
「監督は歴史上の人物で言えば、勝海舟みたいな人。考えてることが先へ行き過ぎて、周りが付いてこれない。人間って、よくなるとわかっていても変わることに抵抗したくなる生き物じゃないですか。だから、生徒のためを思ってしたのに、曲がった解釈をされ、傷ついたこともたくさんあった。もう一つ、成功した話ばかり取り上げられるけど、その何倍も失敗しているわけですから。失敗を忘れないためにも、ちやほやされたくないのだと思います。だから、メディアに対しても慎重にならざるをえないんでしょうね」
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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