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たった1人の自転車部から12年……。
30歳の初山翔、夢のグランツール。
posted2019/05/21 16:30
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Sonoko Tanaka
「万能の天才」の出生地であるイタリアのトスカーナ州ビンチから1人で逃げること144km。ちょうど500年前に天に召されたレオナルド・ダ・ビンチもびっくりするような走りと言えば、少し大げさか。
5月13日、世界三大自転車ロードレースのひとつ「ジロ・デ・イタリア」の第3ステージ(総距離220km)で、1人の日本人の名前がヨーロッパ中に知れ渡った。
ショウ・ハツヤマ(初山翔)。大会主催者の招待枠で出場するNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ(上から2つ目のカテゴリーに属するプロコンチネンタルチーム)所属。神奈川県相模原市出身の30歳。お気に入りのミュージシャンは椎名林檎。好物はアイスクリーム。尊敬するアスリートは福島千里(陸上競技選手)。話せる言語はイタリア語、英語、スペイン語。
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イタリアでレースを生中継する公共放送『Rai』(日本のNHKに相当)は、テロップを付けて細かいプロフィールまで紹介していた。
存在価値をアピールした「逃げ」。
第3ステージは最終的に169位でフィニッシュしたが、勇気ある単独エスケープに多くの人が賛辞をおくった。各ステージで「逃げ」を決め、健闘した選手に贈られるフーガ(逃げ)賞を獲得。多くの場合は小さな逃げ集団が構成され、選手同士で交互に風よけになりながら走るのだが、初山は1人で風を切って前に進んだ。
ロードレースでは、この「風」が厄介になる。1番前で風を受けるのと、選手の後ろに入るのとでは、足への負担が大きく変わってくる。ヨーロッパの自転車ロードレース界に30年ほど身を置く大門宏マネジャー(NIPPO)も舌を巻いた。
「100kmを超えて単独で逃げることはそうない。メディアだけではなく、同業者たちからも評価される走りです」
風向き、体力の消耗加減、後ろの集団のペースを考えて、的確に逃げの指示を出したNIPPOの水谷壮宏監督は「1人の逃げは想定外でしたが、価値あるものだった」と言葉に力を込める。
「私たちはワイルドカード(招待枠)で出場しているから、大会を盛り上げる役目もあるんです。次も呼んでもらえるように存在価値をアピールする必要があります。チームとしては、テレビに多く映ることでスポンサーの露出にもつながります。今回はそれを独占できました」