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たった1人の自転車部から12年……。
30歳の初山翔、夢のグランツール。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph bySonoko Tanaka
posted2019/05/21 16:30
144kmを先頭で走り続けた初山翔。世界三大自転車レースの「ジロ」で躍動する日本人がたちまち時の人となった。
「自分がどこまで行けるのか」
18歳のときに、ヨーロッパでプロになると誓ってから12年。大舞台に立つまで回り道もして、抜け道も使ったという。本人は自らの立ち位置を誰よりもシビアな目で見ている。
現在、最上位カテゴリーのワールドチームに所属する日本人トップ選手の新城幸也(バーレーン・メリダ)、別府史之(トレック・セガフレード)の次の世代が出てこないと言われていることもひしひしと感じていた。
「そんな生易しい世界ではない。日本企業のNIPPOがチームをサポートしていないと、僕はここにいなかったでしょう。でも、いまこうしてチャンスをもらっています。この年齢でジロに初挑戦できるんですよ。普通は絶対にあり得ないこと。だからこそ、僕は全力でトライし、自分がどこまで行けるのかを試したい」
アルプス山脈を走る過酷なコース。
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監督から求められているのは完走ではない。本人もそこを目標にしていない。タスクを全力でこなし、チームのために働くことを誓う。総距離3578.8kmにわたる全21ステージの後半は、アルプス山脈を走る厳しい山岳コースが待ち受ける。標高2618mの峠など、急勾配だけではなく、寒さとの戦いにも打ち勝たなければいけない。最も過酷なグランツールと言われる所以もここにある。
上りを得意とする日本人クライマーは、どこまで意地を見せられるのか。
「自分の到達できる最大限のところまでは行きたい。それがどこなのかは分かりません。もうちょっと上に行けるんじゃないかと思いながら、ずっとその“あと少し”を追いかけています」
万能の天才の出生地で名を売った努力の男は、あきらめずに限界にチャレンジし続けるはずだ。大会最終日の6月2日まで目が離せない。