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羽生結弦へ受け継がれる技術とアート。
伝説のスケーターが映像で甦る。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNew Black Films Skating Limited 2018/Dogwoof 2018
posted2019/05/20 07:00
五輪で金メダルに輝いたのち、プロに転向。ジョン・カリーのカンパニーには後に振付師となるローリー・ニコルやリー=アン・ミラーも参加。
「ジョンに近い存在」は?
カリーの映画の制作を始めるまで、フィギュアスケートに対する関心はあまりなかったと明かすエルスキンだが、制作を終えた今、現在のスケート界にカリーに近しい印象を抱くスケーターがいるか尋ねた。
すると、間を置かず答えた。
「ユヅル・ハニュウさんがいちばんジョンに近い存在ではないかと思います。技術も高いものをお持ちですし、芸術面でも素晴らしい、卓越したものがあると思います。他の選手と比べると抜きん出ていると感じます。
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スポーツの世界には、例えばサッカーで言えばメッシのように、天才と言える存在がいます。ここで言う天才とは、ただすごいだけではなくて、ほんとうに惹き込まれるものを持っている選手を指しています。観てただ楽しむだけではなく、より迫力があって人物に感情移入したくなるものをもっている選手。ハニュウさんもそうですね」
アートもスポーツも、人をつなぐ。
その後に続けた次の言葉は、アートとスポーツ双方を題材にしてきた監督ならではであった。
「アートは作品を見せて感動させることができる素晴らしいものです。スポーツもやはり多くの人の関心を集めて熱狂させるもの。どちらも人をつなぐという意味では同じです。それはある意味で宗教にも近いものだと思えます。映画は映画館にいる人々が同じ感動を分かち合うことができるし、スポーツもスタジアムに大勢の人を集め、感動させるだけではなく、人々をつなぐことができる。すごい瞬間、プレーに、人々が1つの家族のようになってしまう、一致団結させる力がある。
サッカーを例にすると、マンチェスターの人でもヨハネスブルグの人でも、サッカーを共通の話題として語り合うことで、お互いを理解できたり、理解へとつなげていくことがある。社会を1つにする、アートにもスポーツにもそういう役割があります。
そしてフィギュアスケートは、美しいスポーツです。ジョンにしてもハニュウさんにしても、1人の中にアーティストの部分とスポーツ選手としての部分が共存しているのが面白いと思います」