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羽生結弦へ受け継がれる技術とアート。
伝説のスケーターが映像で甦る。
posted2019/05/20 07:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
New Black Films Skating Limited 2018/Dogwoof 2018
圧巻、だった。ドキュメンタリー映画『氷上の王、ジョン・カリー』を観終えて、ただそのひとことが浮かんだ。
ジョン・カリーは伝説的フィギュアスケーターである。
1949年、イギリス・バーミンガム生まれ。幼少期にバレエを習うことを志した彼は、厳格な父に「男らしくない」と許されず、その代わりとして許可されたアイススケートを7歳から始める。
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'71年と、'73年から'76年まで男子フィギュアの全英王者に輝くと、'76年は欧州選手権優勝、さらにインスブルック五輪フィギュアスケート男子で金メダルを獲得し、同シーズンの世界選手権でも金メダルに輝いている。
男子フィギュアの道を切り拓いたカリー。
ただ、そうした成績のみが彼の名を後世に残したわけではない。
フィギュアスケートがアートを内包するものであるという認識が定着している今日からすれば隔世の感があるが、当時、男子のフィギュアスケートに求められていたのはジャンプであり技術であった。極論すれば、表現が入る余地はなかった。
そこに革新をもたらしたのがカリーであった。
卓越した身体能力と、バレエの影響を色濃く受けたその演技は男子のフィギュアに芸術性と表現性をもたらした。いわば、カリーは今日への道を切り拓いた立役者であり、だからこそ彼は語り継がれる存在となった。
その表現は20世紀最大のスターとも言われたバレエダンサーの名から「氷上のヌレエフ」と称されるほどだった。人々が受けた衝撃が分かる。