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羽生結弦へ受け継がれる技術とアート。
伝説のスケーターが映像で甦る。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNew Black Films Skating Limited 2018/Dogwoof 2018
posted2019/05/20 07:00
五輪で金メダルに輝いたのち、プロに転向。ジョン・カリーのカンパニーには後に振付師となるローリー・ニコルやリー=アン・ミラーも参加。
「世の中にもっと知ってもらわないと」
彼の足跡をたどった本作品の監督を務めたジェイムス・エルスキンに、今回インタビューする機会を得た。彼は英国のBBCアーツで映画作りをスタートさせ、アートやパフォーマンスをテーマに数多くの映画を制作。また'90年のサッカーW杯イタリア大会や、インドの伝説のクリケット選手を題材にするなど、スポーツドキュメンタリー作品も創り上げてきた。
「子供の頃、母とTVでジョン(・カリー)を観たのを覚えています。当時はどれくらいすごい人物なのかわからずに見ていたのですが、2014年に彼の評伝が出版され『こんなにすごい人なんだ』と再認識し、彼の過去の映像も観てそのすごさを実感しました。
彼のことを世の中にもっと知ってもらわないといけない、と思ったのが彼のドキュメンタリーを撮ろうと考えたきっかけです」
心動かされるカリーの滑り。
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カリーは金メダルを獲得したあと、プロスケーターとなり自らの芸術を追求していく。その過程にあった困難も今作品では丹念に描かれていく。少年時代、バレエを習うことを認めなかった父親との葛藤、同性愛者への偏見が激しかった時代ゆえのカリーへの逆風。あるいは施設の少なさなどスケートを取り巻く厳しい環境。
何よりも戦うべき相手は、自身の理想とする姿であるようにも感じられた。
「ジョンは人を満足させることはできたけれど、自分を満足させることはできなかったんじゃないか」
エルスキンはそう言う。
作品中ではわずか44年の生涯の中で、多くの苦悩を抱えながら自身が目指す演技を追求し、披露し続けたカリーの足跡が描かれる。当時の彼のインタビューや試合での演技、プロ転向後に立ち上げた彼のカンパニーでのパフォーマンスの映像も数多く使用されており、そこには今観ても色褪せない、高い芸術性を備えた表現、心動かされる滑りがあった。
それらのパフォーマンスの映像の中には制作の過程で発掘された、この映画でしか観ることができないものも含まれている。カリーの生きる姿をしっかり伝えている点とともに、本作の功績のひとつと言えるだろう。