Jをめぐる冒険BACK NUMBER
オシムが先取りしていたクロップ流。
当時最強の磐田を翻弄した策とは。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2019/05/09 10:30
オシム監督がジェフで巻き起こした一大センセーション。その象徴的存在が阿部勇樹だった。
後半に主導権を奪ったジェフ。
後半開始早々、チェ・ヨンスがGKヴァン・ズワムと1対1を迎えたのが反撃の合図。後半5分には右サイドを突破した坂本將貴が藤田に倒されてPKを獲得。チェ・ヨンスの鮮やかなチップキックで同点に追いつくと、主導権は完全に市原に移った。
迫りくる市原のプレスを、磐田はロングボールでかわしたが、こぼれ球を拾われ、二次攻撃、三次攻撃を受ける格好になった。
磐田にとって痛かったのは、中山雅史を欠いていたことだ。空中戦での競り合いに勝ち、こぼれ球も回収してくれるターゲットが負傷のために不在だったのだ。
後半30分には、チェ・ヨンスの打点の高いヘッドにサンドロが詰めて、ついに市原が逆転に成功する。「勢いに飲まれた」と田中誠は振り返ったが、その言葉はまさに、市原のスタイルを言い当てていた。
残留争いの常連で、日本代表がひとりもいない市原が、王者・磐田に立ち向かう。小さき者が巨大な相手に真っ向勝負を挑み、土俵際まで追い込む勇敢な姿が、観る者の心をとらえた。
ジェフに自力優勝のチャンスが。
だが、磐田も負けてはいない。逆転されてから1分も経たないうちに、ジヴコヴィッチのクロスに前田が頭で合わせ、スコアをタイに戻すのだ。
真夏の熱戦は2-2のまま、痛み分けとなった。追う磐田にとっては痛恨だったが、逃げる市原にとっては勝ちに等しいドローと言えた。依然として首位をキープしているうえに、3位に後退した磐田から自力優勝の芽を摘み取ったからである。
ファーストステージは残り2試合。天王山の陰で2位に浮上した横浜FM、3位の磐田の結果いかんでは、次節にも市原のステージ初優勝が決まる――。
未知の領域に突入した市原が、優勝のプレッシャーに晒されたのは、ここからだった。