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ベテランとの敗戦で見えてきた、
“世界1位”としての大坂なおみの課題。
text by
吉谷剛Tsuyoshi Yoshitani
photograph byGetty Images
posted2019/03/25 11:20
スーウェイの熟練技の前に足をすくわれた大坂。次戦はドイツで行われるポルシェ・グランプリだ。
シェイ・スーウェイの信念。
一方、シェイ・スーウェイは自分を知っていた。
今年の全豪オープン3回戦で大坂相手に第2セット途中までリードしながら苦い逆転負けをした経験から「何が起きても不思議ではない。自分のやるべき事に集中するだけだった」と。
トリッキーで相手を揺さぶるテニスは、誰が相手でもどんな状況でも変わらない。波に逆らっても勝ちは近づかない。そんな信念が第3セットの最後まで貫かれた。
リターンゲームでは大坂の第2サーブを読み、常にオープンスペースを狙って相手を動かす。サービスゲームでも大坂の甘いリターンを見透かすように3打目のポジションを構えて、ライジングで両手打ちのフォアを決めた。ネットに詰めてのボレーも力任せで決めるのではなく、ラケットのフェースを球に合わせるだけのお手本のような技術。
波を自在に操るベテランらしさを出し切ることだけに集中していた。
「波待ち」の心構えも必要。
予期せぬ心の揺れでこれまで乗れていた波にバランスを崩すこともある。
長い試合の中では、求めている波が来ない時間もある。
風を読み、白い小さな波しぶきから海全体のうねりまで観察する「波待ち」も、勝利を引き寄せる上では大事な心構えだ。
大坂は第3セットでじっくりと波を待つ必要があったが、2-0のリードから追いつかれると自分の力で強引に波をつかまえようとした。リズムを乱してミスが増え、白い泡とともに勝機はどんどん遠のく。第1セットのようにじっくりとしたラリーで立て直せば、また勝利の波は大坂に訪れたかもしれない。
青いコートの中で生じたうねりを冷静に見つめる目がなかった。