フランス・フットボール通信BACK NUMBER
名門フラメンゴで少年10人が焼死。
ブラジルにはびこる劣悪な育成環境。
text by
エリック・フロジオEric Frosio
photograph byDR
posted2019/03/21 09:00
悲惨な環境の中で、サッカー界の未来のスーパースターを目指して練習に励むブラジルの少年たち。その寮の環境は劣悪極まりないが……。
ジェトゥリオ・バルガスのインタビュー。
――あなたがフラメンゴの育成組織にいたころの話を聞かせてください。
「入ったのは9歳のときで、プロ契約を結ぶまで500試合以上を年少カテゴリーで戦った。練習場は最初はガベアにあって次いでレクレイオ・ドス・バンデイランテスの古い施設に移り、最後は“ニーニョ・デ・ウルブ”に引っ越した。環境設備の面ではどこも最悪だった。まずエアコンがない。部屋の壁は穴だらけで、僕らは汚れたマットレスの上で寝ていた。
当時は財政状況が今とはまったく異なっていた。プロの選手の給料支払いも遅れがちで、子供たちが置かれた状況は今よりずっと酷かった」
――ならば親たちは、どうしてそんな酷いところに子供を送り込むのでしょうか?
「貧困から脱するための方法が他にないからだ。それは今も同じで、少年たちの99%は貧困家庭の出身だ。
酷さで言えば、家もクラブも変わらない。小さな部屋にすし詰めにされて、米と豆しか食べられない生活を送っている。だから事故が起こっても、誰も糾弾の声をあげようとはしない。彼らにそんな力はない。それにもし告発でもしようものなら、報復されて追い出されるかもしれないだろう」
――あの悲劇についてはどう思いましたか?
「かつての僕にも起こりうることだったし、今、フルミネンセの育成組織にいる11歳の甥っ子や、これからサッカーを始める僕の8歳の息子にも起こりうることだ。
僕は5日間家にこもって、悲嘆の涙を流した。それから育成センター近代化のために投資しているイタリアのビッグクラブのドキュメンタリー番組をテレビで見て唖然とした。
『どうしてセリエBやC、Dの実態は見せないのか。そっちの方こそ重要であるのに』と思った。
それで僕はブラジルで行動を起こすことにした。ブラジルの育成の最も影の部分、小クラブの実態を明らかにしたかった。USBメモリーを買って自分の携帯に装着し、フォロワーたちに絶対に名前を明かさないから僕のワッツアップ(SNSの一種)に実態を示す写真を送ってくれるように呼びかけたんだ」
――反響はどうでしたか?
「およそ350枚の写真が寄せられた。でも子供たちを識別されないために、公開したのは7~80枚だけだ。彼らがそれで酷い扱いを受けたら元も子もないからね。
僕が見たのは汚いうえに危険な宿泊施設、不衛生なキッチン、不潔きわまるシャワーなどだった。まるで囚人をたくさん詰め込んだ刑務所のようで、本当に悲惨だった」