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10人の学者が執筆した、古代五輪の“ミニ百科”。~紀元前の五輪に渦巻く人間の業と生き様~
text by
馬立勝Masaru Madate
photograph bySports Graphic Number
posted2016/03/16 07:00
『古代オリンピック』桜井万里子・橋場弦編 岩波新書 760円+税
古代ギリシャのオリンピックでは、勝者に与えられるのはオリーブの冠だけだった。4年に1度の大会にギリシャの都市国家は戦争を止めて参加した。19世紀末、フランスのクーベルタン男爵はこの大会に理想のスポーツの姿を見出し、近代五輪を提唱した。勝つことでなく参加することを目指し、報酬を求めぬ競技者の大会となるが、実像はどうだったのか。10人の研究者が考古学・歴史学の成果を基に古代オリンピックを語った。
例えば、裸体での競技。新兵の鍛錬からの流れという。教練施設ギュムナシオン(ジム=練習場の語源)は「裸の」という形容詞に由来し、皆が裸で鍛錬に励んだ。競技では当初、褌を着けたが、褌が外れてもつれた事故で選手が死んだとの伝説がある。褌なしの身軽さで優勝したとの伝説も。それで裸体に、というのだが、これらの伝説は前1世紀以降で新しい。前6世紀半ばの壺絵に裸体競技の図柄が多い。ギリシャの神々は裸で描かれる。競技会は主神ゼウスへ捧げる祭典だから、神に近づくべく裸になったのでは……。諸説紛々、裸の競技者を追う蘊蓄(うんちく)が楽しい。