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プロ野球、コーチの年俸が低すぎる?
なぜ「指導」の対価は上りづらいか。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/02/07 11:00
ソフトバンクはやはりコーチの待遇もいい。本多雄一のような選手を招聘できることの価値は計り知れない。
スター選手にとっては割に合わない。
以前、野球ファンなら誰でも知っている方が、こんな言い方をしたのに驚かされたことがある。
「自分のことをここまで大きくしてくれた野球界に指導者として恩返ししたい気持ちはあるが、万が一うまくいかなかったとき、自分の経歴にキズがつくリスクを1000万や1500万のお金と引き換えにすることはできない」
これぐらいの金額なら、プロ野球のコーチぐらいの年齢のサラリーマンでもそれなりにいる額だろうし、もっと言えば、コーチの場合はもちろん「終身雇用」ではなく、ほとんどが「1年契約」なのが現実だ。
かなりショッキングな言葉だったが、功成り名を遂げた人たちの偽らざる本音と解釈すれば、理解できた。
達人たちの技術を後に伝えるために。
「適正価格」がどれほどかはわからないが、今のプロ野球選手たちが、赤星憲広から盗塁技術を教わることができ、小久保裕紀から雄大な放物線の打ち方を教わることができ、ピッチャーなら黒田博樹から「男気の真髄」を教わることができる方法が何かあるのではないか。
そう考えて、ない頭をひねったのが、こんな「システム」である。
いろいろ聞いてみると、今のプロ野球で「一人前」と見なされるのは、年俸でいうと5000万円がそのラインだそうだ。
ならば、5000万円以上の年俸の選手たちが、たとえばその5%を出し合っていったん球団に返し、そのお金を頭割りにして、コーチひとりひとりに「謝礼」として年俸に上乗せしてもらうのだ。
なにバカなことを……とお笑いの方もおられようが、大まじめに考えて、ほかに“代案”が浮かばなかったのだから、そうバカな手とも思わない。
ちょうど新聞に「ソフトバンク」の陣容が出ていたので、それを例にとってみる。
年俸5000万円以上の選手の年俸合計がなんと約50億円になる。その5%の2億5000万を、コーチ22名に均等に割り振ると、ひとり当たり1100万円。ほとんどのコーチが年俸1500万円のようだから、合わせて2600万円となり、「まあまあ」の水準になるのだ。
まあまあ……ってなんだ? と言われても困るのだが、とにかく「コーチ」の待遇を上げないと、現役時代にすばらしい経験値を得て、卓越した技術論を構築した元・選手たちが、それを語り継ぐ機会を逸することにもなって、実に「宝の持ち腐れ」でもったいないことおびただしいとモヤモヤしてくるのだ。