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安倍昌彦が考える2018ベストゲーム。
根尾、辰己、小園が輝いたあの1戦。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/12/31 09:00
大学生が相手でも、根尾昂のバットは止まらなかった。ではプロでは……、もうその活躍が楽しみだ。
根尾のバットからプロの職人の音。
6-0とやられっぱなしの5回だ。今度は“弟分”のほうが奮い立った。根尾昂(大阪桐蔭→中日1位)だ。
早稲田大の左腕・小島和哉(→千葉ロッテ3位)から放ったライナーが、アッという間に中堅手・辰己涼介の頭上を越える。
カッパーンだったか、カッシャーンだったか、インパクトの打球音からして違っていた。木製バットを使い慣れたプロの職人の音だった。
根尾は前のイニングの守りで、逢澤峻介(外野手・明治大→トヨタ自動車)が打ち上げた「あわや!」の右中間大飛球を懸命に背走、ジャンプしながら逸していた。
そんなモヤモヤ、イライラもあったはずだ。うっぷんを一気に晴らすような「フルスイング」だった。
奈良間、乾坤一擲のロングスロー。
その右中間大飛球の場面。根尾昂のグラブからこぼれ落ちた直後だ。
今度は、間髪入れずにボールを拾った根尾からの返球を受けた二塁手・奈良間大己(常葉大菊川→立正大進学予定)が「勝負」をかけた。
根尾が落球した瞬間、奈良間がサッと距離を詰めた。そして根尾からの送球を受けると、振り向きざまほとんどホームを見ないで投げたロングスローがすごかった。
ほぼストライクのコースで捕手・小泉に返すと、落球を見てからスタートをきった二塁ランナーの渡辺佳明二塁手(明治大→楽天6位)をホームベース直前でタッチアウトに持ち込んだ。
振り返って、一瞬状況を見定めてからではもう遅い場面だった。
カットに入った二塁手・奈良間大己は頭の後ろについた目で、二塁ランナーの動きを見ていた。いやむしろ、後頭部の“アンテナ”で感じながら、頭の中でダイヤモンド上の展開をイメージして、彼なりの結論を出したうえでの「一か八か」だったに違いない。
一見、カンに頼った無茶なプレーのように見えて、実は一瞬の判断があったプレーだったからこそ、結果が出せたのだろう。
私には、「今日のベストプレー」にしか見えなかった。