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クラブW杯南米代表を巡るゴタゴタ。
アルゼンチンサッカーの闇が深すぎる。 

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藤坂ガルシア千鶴

藤坂ガルシア千鶴Chizuru de Garcia

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photograph byUNIPHOTO PRESS

posted2018/12/18 07:00

クラブW杯南米代表を巡るゴタゴタ。アルゼンチンサッカーの闇が深すぎる。<Number Web> photograph by UNIPHOTO PRESS

サンティアゴ・ベルナベウは確かに最高のスタジアムである。しかし南米クラブ王者を決める場所としては……。

「我々はステージに上がらないといけない」

 さらに今回の一連の出来事は、アルゼンチンサッカー界の「闇」をも浮き彫りにした。

「歌にもあるように、どんな状況であっても我々はステージに上がらないといけないんだ。残念ながらそういうものなのさ」

 第2レグの延期が決定されたあと、アルゼンチン国内で拡散されて話題になった動画は、リーベルを率いるマルセロ・ガジャルド監督の、そんなコメントから始まっている。

 動画は、警察隊による護衛とともに会場のエスタディオ・モヌメンタルに向かっているボカのチームバスの映像と、それを待ち受ける大勢のリーベル・サポーターの画で始まる。そして、バスが通過するなりコンクリート片や空き瓶が投げつけられ、窓ガラスが粉々に打ち破られる悲惨な有り様……。

 続いて、テレビ番組で「アウェーチームのサポーターを入場させて試合を行うことは可能でしょうか?」と問われた、アルゼンチン治安省のパトリシア・ブルリッチ長官が、それが愚問とでも言いたげな薄ら笑いを浮かべて「ええ、だって私たちはG20を開催するのですよ。それに比べればボカ対リーベルの試合の警備など楽なものです」と答える場面が続く。

 その後、映像は住宅街の中心で暴れまくるサポーターたち、それを鎮静しようとゴム弾を発砲する警官隊の様子、チケット転売によって得られた売上金が回収される現場を隠し撮った場面などをはさみ、無残に汚され、潰されたサッカーボールの画像で終わる。

 BGMで使われているのは、ガジャルドが例に挙げた「歌」。クイーンの名曲『The show must go on(ショーを止めるわけにはいかない)』だ。

リーベルファンの暴挙だけが問題ではない。

 この映像を作った人物は不明だが、おそらく、リーベルの失格を求めるボカのファンが、不満を表す目的で作ったのだろう。

 だが厳密に言えば、この映像が訴えかけているのはリーベルファンの暴挙に限らない。アルゼンチンサッカー全体に潜む深い問題を映し出しているのだ。

 どのクラブにも「バーラ・ブラバ」と呼ばれる暴力的サポーター集団が存在し、彼らにチケットの転売や施設内の駐車場の管理など、収入源となる何らかの特権を与えることで政治的権力の安定を確保する。

 バーラのメンバーは、チームが不調のときや宿敵とのクラシコ直前になると選手たちを脅す。資金が必要になると選手から小遣いを強請る。暴動を起こし、政治色の強いデモに参加する。そして今回のように、チケット転売の売上金を没収されたことを理由に、相手チームのバスを襲撃して試合を中止させる蛮行も躊躇しない。

【次ページ】 サッカーは「腐った社会」の縮図。

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#リーベル・プレート

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