ドイツサッカーの裏の裏……って表だ!BACK NUMBER
ドルトムントが“モダンジャズ”化。
ファブレ監督とクロップ時代の違い。
posted2018/11/29 08:00
text by
遠藤孝輔Kosuke Endo
photograph by
Uniphoto press
その履歴書に輝かしいタイトル歴はひとつもない。
強いて挙げれば、2006年から2年連続で手に入れたスイス年間最優秀監督賞くらい。11月2日に61歳の誕生日を迎えたスイス出身のルシアン・ファブレは約28年に及ぶ指導者生活の中で、まだビッグタイトルを手中に収めていない。
それでもドイツで「世界最高レベルの指導者」(ルドガー・シュルツェ記者)と称され、かつての教え子から「15年前の時点でそれこそグアルディオラのようだった」(グアドループ代表FWアレクサンドル・アルフォンス)と絶賛されている。
そうした賛辞に相応しい指導力を存分に発揮しているのが今シーズンのファブレだ。この夏から率いているドルトムントで、本人が「数カ月かかる」と予想していたチーム作りを瞬く間に進め、開幕から12試合無敗の快進撃に導いているのだ。
バロテッリを手懐けた実績。
チャンピオンズリーグで優勝候補の一角を占めるアトレティコ・マドリーに衝撃の大勝(4-0)を収めたほか、王者バイエルンとの直接対決では見事な逆転勝利(3-2)を挙げた。
チームの完成度は、アトレティコの指揮官ディエゴ・シメオネの「スペクタクルなチームで、ヨーロッパのベストチームのひとつに違いない」という称賛から窺えるだろう。
それでもファブレが有頂天になる様子はない。むしろチームの「修正点はまだまだある」と、18歳のイングランド代表FWジェイドン・サンチョや20歳のモロッコ代表DFアクラフ・ハキミら多くの若手が躍動しているチームに慢心が生まれないように、細心の注意を払っている。
そのマネジメント能力や人心掌握術は折り紙付きだ。今夏まで2シーズンに渡って率いていたニースでは、あの悪童マリオ・バロテッリを手懐けてみせた。ニースのジャン・ピエール・リベール会長は当時、こう語っている。
「マリオはこれまで所属していたクラブでしっかりとサッカーに取り組めていなかった。もし19、20歳の時にファブレと出会っていたら、彼はもっと凄い選手になっていただろう」