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濱田美栄「ライバルたちを大切に」
宮原知子、紀平梨花に授けた教え。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2018/11/18 11:30
GPシリーズアメリカ大会、宮原知子(右)と濱田美栄コーチ(左)は目を閉じ、おでこをつけ、手を取り合った。
「ライバル関係」の難しさ。
スポーツでは「ライバル関係」がよく取り沙汰され、注目される。力が拮抗した状態で競い合えば、どちらが勝利するのかに関心が集まるのは自然なことだろう。それは選手本人も否応なく相手を意識せざるを得なく、自然の成り行きだろう。
問題は、その先にある。
ライバルと目される選手がいて、どんな関係を作り上げていくのか。もし普段の練習の仲間なら、日々、どう接するのか。そういった部分にも指導者は気を配らなければならない。なぜなら、その関係性が選手の今後を左右することがあるからだ。端的に言えば、足を引っ張り合うようになってしまえば、お互いの成長は望めない。
「エネミーではなく……」
「相手の人が嫌だったので、試合前も変に気を遣って、自分でも“何だかな”とは思っていたんですけど……」
これはだいぶ前に聞いた、ある競泳選手の言葉だ。相手を敵とみなしているようでは、自分の力を出し切ることはおぼつかない。
だからこそ多くの指導者は、競争相手を“敵”ではなく“よきライバル”であると意識できるようになるか、選手への指導において努めているのだ。
濱田コーチは、先の話の合間に「(同じ大会に)2人出すって難しかったんですけど」と話していたことから、腐心する部分もあったのだろう。実際、広島での実体験や伝えたかったことは心に残るものだし、濱田コーチが選手を育てるにあたって、何を大切にしているかも改めてうかがえた。
それは日頃から語ってきたという次の言葉からも分かる。
「エネミーではなく、ライバルたちを大切にしなさい。よきライバルが必要。大切にしなさい」
相手の力を認め、それを糧にできる重要性を選手に伝えてきたのだ。