オリンピックへの道BACK NUMBER
濱田美栄「ライバルたちを大切に」
宮原知子、紀平梨花に授けた教え。
posted2018/11/18 11:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
11月9日、10日に行われたフィギュアスケートのNHK杯女子は、紀平梨花が優勝、宮原知子が2位という結果とともに幕を閉じた。この大会で印象に残ったのは、2人を指導する濱田美栄コーチだった。
試合後、記者陣から宮原へ紀平についての質問が相次いだ。紀平の存在をどう感じているか、紀平に次いで2位という結果に終わったことをどう受け止めているか、高難度のジャンプを持つ紀平とどう戦っていくのか……などだ。
2人はともに関西大学のリンクで練習するチームメイトだ。ただ、試合になれば競い合う相手ともなる。だから、そうした質問も多かったのだろう。
その関心は、両者を教える指導者にも向けられる。どう同じ大会に臨ませて、どう2人と接していたのか。
SP前日、2人に話したこと。
濱田コーチは、ショートプログラムの前日、2人に対して食事の席でこのような話をしたという。
「広島でのNHK杯、私自身に強い想いがありました。私の母は、被爆一世なんです。伯母さん、母の姉は13歳でこの世を去りました。それもあって、『今こうやって才能とチャンスに恵まれたのだから、好きなことをやり続けられる世の中に生まれたのだから、ベストを尽くそう』という話をしました」
ベストを尽くして表彰台に上った彼女たちには、この教えがしっかりと伝わっていたに違いない。さらに別の教えもあった。
「この街はまったくの焼け野原から、ここまで自分で立ち直ったわけじゃないですか。広島の人が悪いことしたわけじゃないじゃないですか。それでも助け合って、人のせいにせず、ここまで来た。文句を言うにも何もないわけですから。だから人のせいにしないでやろう、と私は言うんです」