プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“甲斐キャノン”が広島ベンチを縛る。
「機動力のカープ」がもう走れない?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/11/01 14:20
尊敬する捕手・炭谷銀仁朗(西武)から譲ってもらった特殊なミットを駆使する甲斐拓也。
盗塁阻止率のリーグ1位と2位が。
付け加えて言えば第1戦の延長11回にも広島は2死一塁から野間峻祥外野手が走って、これもアウトになっている。このときの捕手は甲斐ではなく高谷裕亮捕手だった。ただ今季のパ・リーグの盗塁阻止率1位は甲斐の4割4分7厘で2位は高谷の3割8分5厘。ソフトバンクは阻止率1、2位の捕手がホームを固めているわけである。
そしてこの5度の盗塁阻止がもたらしている意味は、決して広島の盗塁を阻止した、走らせなかったという事実だけではないのである。
「サインを出すのは監督ですけど、確かに制約が出てしまっているのはあるかもしれない」
こう語るのは広島の玉木朋孝内野守備・走塁コーチだった。
甲斐のせいで作戦の幅が狭くなった。
広島にとってやっかいなのは、作戦の幅が大きく狭められてしまっていることなのだ。
前述したように決して広島ベンチも甲斐キャノンに、指をくわえて殺されるのを待っていただけではないのである。
野球のセオリーとしては、打順にもよるが一塁に走者を出したときは、無死なら送りバント、1死ならヒットエンドラン、2死なら盗塁というのが常道とされている。ここからいかに相手バッテリーや走者と打者の兼ね合いを考えてアレンジしてサインを出すか。それがベンチワークなのである。
実は過去に緒方監督が、CSを含めた短期決戦で多用してきたのは送りバントだった。
シリーズ開幕前にこのコラムで書いたが、2年前の日本ハムとのシリーズでは第5戦までに13回先頭打者を出して、そのうち第3戦の無死三塁を除く12回で7度も送りバントを選択していた。
ただ、この日本シリーズではここまでの4試合で8回、先頭打者を出して送りバントを選択したのは2回だけだった。
1度目が第1戦の5回に8番の安部が出塁して9番の大瀬良大地投手の代打・曽根海成内野手が送ったもの。2つ目が第2戦の1回に先頭の田中が二塁打を打って菊池涼介が三塁に送ったもの。いずれも他の作戦が考えづらいシチュエーションでの選択だった。
過去の経験、失敗から、このシリーズでの緒方采配は、明らかに変わっていたといえるわけである。