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田臥勇太以来の日本人NBA選手も、
渡邊雄太「まだスタートライン」。
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byAP/AFLO
posted2018/10/30 07:00
渡邊のデビュー戦となったフェニックス・サンズ戦。チームは117-96で勝利した。
フリースローに特別厳しい父親。
もっとも、決めて当たり前のシュートだからといっても、必ず全部決まるわけではない。1人で打つシュートだからこそ、ちょっとした身体の使い方の狂いや、気持ちの揺れが出てしまう。
ジョージワシントン大3年のときに、こんなことがあった。2点リードした終盤に、渡邊はフリースローを2本とも外してしまったのだ。幸い、相手のラストショットが外れて逆転の惨劇は免れたが、日本からインターネットで試合を見ていた英幸さんは、すぐに息子に「あれは2本決めて4点差にしなくてはいけない場面だぞ。しっかり練習しろ!」と辛口のメッセージを送ったという。
昔は厳しかった父も、息子が渡米した後はプレーに文句を言うことはなく、むしろ励ますメッセージを送ることが多かったのだが、フリースローだけは別だった。当時、英幸さんは、その思いをこう語っていた。
「彼のように、どうしても身体能力で黒人プレーヤーに劣ってしまう選手は、フリースローのようなところで勝るしかない。彼が今後もアメリカで生きていくには、フリースローを確実に決めることは必須だと思います」
NBAは日常の努力の先にある。
子供のころに家の前や、空地、あるいは尽誠学園高校の体育館、渡米した直後のセントトーマスモア(プレップスクール)の体育館、4年間過ごしたジョージワシントン大の体育館──。フリースローはどこでも練習した。渡邊にとっては、子供のころからの日常の光景だ。
NBA最初のシュートがフリースローだったことについて、英幸さんは「派手でなく、雄太らしいなと思います」と言う。
派手ではなく、日常の努力の先にある世界。渡邊にとってのNBAはそういう世界だったのだ。まわりの友達がNBAはテレビの中の世界だと思っていたときに、渡邊は自分の毎日の練習の先にNBAがあると信じて、練習した。そう信じていたからこそ、たどり着くことができた。フリースローの場面は、まるでその象徴のようだった。