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アジア大会で完全復活を遂げた、ベテランスイマー・鈴木聡美が描く未来。

posted2018/09/05 11:00

 
アジア大会で完全復活を遂げた、ベテランスイマー・鈴木聡美が描く未来。<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

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photograph by

Shigeki Yamamoto

  2012年のロンドン五輪では、女子200mと100mの平泳ぎ、400mメドレーリレーで日本女子競泳史上初となる3つのメダルを獲得した鈴木聡美。それから6年。日本代表入りを逃すなど、苦しんだ時期を乗り越えて、先日行なわれたアジア大会では100mと50mの平泳ぎで金メダルを獲得。主要国際大会では、ロンドン五輪以来のメダルとなった。若手の台頭が目覚ましい競泳で、ベテランとなった現在も進化を続ける彼女が描く未来を語ってもらった。

 競技では世界のトップに立ちたいのですが、普段はあまり目立ちたくないタイプで、どちらかというと引っ込み思案。だからロンドン五輪でメダルを取れたのはうれしかったですが、当時はそれ以上にたくさんの方に声をかけられたり、注目されることが不安で仕方なくて、不快感すら感じるほどでした。

 芸能人じゃないのに、なぜこんなに視線を向けられるんだろうとか、すごく考え込むようになって。慣れてなかったのもありましたし、声をかけられてもどう対応していいか分からなくて。応援してくださるのはうれしかったけど、知らない方と写真を撮ることも怖くて断り続けていました。それでいて、逆に「あの人、冷たいよね」って思われたらどうしようって、考えてしまうんですよね。マイナスな気持ちはどんどん積み重なっていくのに、周りに頼ろうとせず、できもしないことを自分で背負い込んで、殻に閉じこもっていた時期がありました。

 そういう状態が競技にも影響したのでしょうね。2015年に代表落ちをしてしまって。翌年にリオ五輪が控えていたし、これはチームをクビになってもおかしくない、って思ったんです。そこまできて、私は分からないことだらけだし、怒られてもいいから、思ったことや気持ちをとにかくぶつけて出していこうって決意できた。電話で監督を呼び出して「どんなことでもしますから、続けさせてください。お願いします」って泣きながら頭を下げました。ただ、監督はチームから外すなんて、あまり思っていなかったらしくて(笑)。「頑張りたいなら、覚悟しておけよ」って言われたことで、気持ちを切り替えることができました。

目標の達成度でメダルの価値が決まる。

 その後、リオ五輪の代表権はなんとか得ることができましたが、結果を残すことはできませんでした。平泳ぎ200mで金メダルをとったのは金藤理絵選手。その姿を見て勇気づけられたし、元気づけられたし……本当に色々な意味で感動したレースで、私もこういうレースをやりたい、オリンピックで金メダルを取りたい、って自分のなかで一番火がついた瞬間でした。この悔しさをバネに東京まで続けて、今度は私も金メダルを取りたいって決意したんです。

 ただ、立てた目標の達成度によって、自分にとってのメダルの価値が決まるのではないかな、とは思っています。私の場合の目標はまずは表彰台圏内で、なおかつ自己記録を更新すること。だから銀メダルだったとしても自己記録を更新できたら、それは私にとって金メダルに近いものじゃないかな。

 オリンピックってすごいですよね。トレーニングをして疲れて帰ってきて、「明日もトレーニングあるな、何で行かなきゃいけないんだろう」って思うこともあります。だけど「オリンピックがあるからだ。オリンピックのためにやっていることなんだから、今頑張らないと絶対後悔する」って気持ちを立て直すことができるんです。それぐらいオリンピックは大きな存在です。

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