マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
藤原恭大と根尾昂のライバル性。
「自分が打つと、藤原は燃える」
posted2018/08/26 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
夏の高校野球が終わってしまった8月の終わりは、「喪失感の夏」である。
それにしても、今年の甲子園ほど立ち去りがたい思いにさせられる大会もなかった。
どういう理由か自分でもよくわからないのだが、あれだけ酷暑の連日だったのに、うんざり感や嫌悪感がなく、むしろ、なんだかいとしく思えるような時間の連続だったような気がする。
大会前の想定より、フタを開けてみたらずっと粒揃いだったこの夏の出場校と選手たち。ハイレベルなチーム同士の油断できない激闘と波乱の連続。
主にネット裏の第二記者席で時を過ごす者にとっては、周辺の内野席がこの夏から“指定席”になり、せつなそうに席を探す家族連れの姿がなくなっただけでも、なんだか穏やかな空気が流れていたような……そんなことも例年より居心地のよい甲子園になった理由だったのかもしれない。
根尾昂と藤原恭大の“競い合い”。
終わって数日だから、まだまだ奮闘した球児たちの余韻が充満しているのだが、今にして振り返っても、思い出されるのは根尾と藤原。 大阪桐蔭高校の最強コンビ・根尾昂と藤原恭大の、とんでもなく突き抜けたバッティングだった。
彼ら2人はこの甲子園で、試合を勝ち上がりながら、実はバッティングの“腕”の競い合いをしていた。私の目には、そういうふうにしか見えなかった。
まず、作新学院との初戦だ。
1-0で迎えた緊迫の8回。4番・藤原恭大が内角速球をバチンとひっぱたいた痛烈なゴロを右翼手が後ろに逸らすと、一気にトップギアに入れた藤原のターボエンジンがうなりをあげて、あっという間にダイヤモンドを駆け抜ける。
すると、それをウェイティング・サークルで見ていた5番・根尾昂が左中間を破る。目の前で、藤原に「ランニングホームラン」(記録は単打と失策)を見せつけられて、スタンドがドッと沸き返って、負けてはならじ! 根尾昂が燃えた。