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一度チームワークを捨て、その後に。
大阪桐蔭を支える個と団結力の哲学。
 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2018/08/21 19:20

一度チームワークを捨て、その後に。大阪桐蔭を支える個と団結力の哲学。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

押しも押されもせぬ日本一の名将・西谷浩一監督は、誰よりも繊細で細かなことに気がつく教育者でもあるのだ。

個を高める時期はチームワークを捨てる。

 西谷監督は個を高めようという時期には「チームワークは必要ない」と選手たちに伝えている。もし練習をさぼっている選手がいても、他人は注意しなくていい。その時期は自身の目標設定を実現するために、ただただ自身と向き合い取り組む時期だという認識を持たせているのだ。

「他のやつが何をやっていても放っておけ、個を高めている時期はチームワークが悪くなっていいくらいに思っている」と西谷監督は言う。

 そしてある時期が来ると、西谷監督は選手たちにこう宣言するのだ。

「これまでは個人練習をメインにやって来たけど、きょうからはチームとしてやる。だから、結果としてメンバー外れてしまったらやる気をなくすとか、自分が控えに回って納得がいかないと思う選手がいるなら、きょうからグラウンドに入らんといてくれ。皆の目標が日本一という中、どうチームとして絡みあっていくかが大事になる。だから、先発したいと思っても自分がそうなるとは限らない。今の時点で控えになるのが嫌なら、グラウンドに来んといてくれ」

 とことん個を高めて、ある時期が来たら組織として融合させる。

 西谷監督はそうした2段階のチームづくりをすることで育成と勝利の二足のわらじを実現させてきたのだ。

「最強のチームになったことを嬉しく思います」

 その結果が、2度の春夏連覇を含む7度の全国制覇に他ならない。

 ことしのセンバツ大会を優勝したときの、西谷監督との会話が鮮明な記憶として残っている。準々決勝で花巻東に19-0で勝った時のことだ。大差がついても、送りバントや盗塁を使わずに攻めていたことに感心したと伝えると、こう返してきたのだ。

「甲子園の投手に対して走るのではなく、しっかりと打つ練習ができる場面でした。まだまだなチームです。もっともっと鍛えたいです。体も技も、心も」

 夏の決勝戦は13-2の大差になったが、最後まで彼らがバットを振り続けたのは、最後まで勉強という気持ちがあったからだろう。

「全員の想いがこもった優勝です。本物のチーム、最強のチームになったことを嬉しく思います」

 優勝監督インタビューでそう語った。指揮官の力強い言葉は、大阪桐蔭時代がまだまだ続くことを宣言しているかのように聞こえた。

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