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龍谷大平安を苦しめた投球リズム。
鳥取城北の「戦術的な遅さ」とは。
posted2018/08/11 15:45
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
古豪を追い詰めながら9回サヨナラ負け。
しかし、敗者・鳥取城北の山木博之監督の表情にあったのはあと一歩まで迫った充実感だった。
「勝てるチャンスがあったんで悔しいですが、選手たちは最後までいい勝負をしてくれた。力を出し切ってくれたと思います」
1回に先制を許すも、難波海斗―山下泰輝のバッテリーを中心に守備で流れを呼び込むと、8回に同点に追いつく粘りを見せた。最後は「甲子園100勝」を狙う古豪の執念の前に屈した形だが、どう転んでも不思議ではない試合展開だった。
戦前の予想を覆す接戦を演じた要因の1つが、バッテリーの呼吸だ。
捕手の山下は「3点以内に抑えられると思った」と手ごたえを感じていたという。強力打線を混乱に陥れたのは投球間隔の長さだ。
相手投手の2倍以上の時間をかけて。
エースの難波は投球間の意識をこう振り返る。
「1球1球丁寧に行こうという意識がありました。あまり長くとりすぎると注意されるんですけど、そこは守備にも迷惑がかからないようにしながら投げていました」
高校野球では、投手はテンポよく投げるのが良しとされている。
特に甲子園では審判からせかされることも多く、リズムよく投げることで試合の主導権を握ろうとするチームは多い。
しかし、鳥取城北バッテリーは真逆を選んだ。
これはタイムにも表れている。実際に、ストップウオッチで計測してみたが、投手の難波がボールを受け取ってから投球始動まで、およそ12~13秒かかっていた。もちろん、シチュエーションによって変わるが、速くても10秒は使っていた。
一方の龍谷大平安のエース小寺智也は4秒台後半から5秒台での投球が多かったので、城北バッテリーの間合いの長さが想像できるだろう。走者が塁上にいけばその投球間隔はさらに伸びていた。