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清原和博が1985年決勝を見る。
「自分の一番、輝いている瞬間を……」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakashi Shimizu
posted2018/08/07 08:00
ただただ試合の映像を凝視し続けた清原和博。あの夏から、33年の月日が経っていた。
無限の葛藤から絞り出された言葉とは?
明と暗。その対比は我々が想像した以上のものだった。思わず、目を背けたくなった。
ただ、不思議だったのは、清原氏が一度たりとも画面から視線を外さなかったことだ。
言葉さえも感情を失ったまま、ポツリ、ポツリとしか漏れてこないのだが、その目だけは最初から最後まで、画面を食い入るように見つめていた。
取材が終わった後、清原氏は重たさを引きずったまま、帰っていった。
感情も言葉もあまりに少なかったため、私は、その胸中を測りかねていたが、それから数時間して、清原氏がメッセージを伝えてきた。
「今日は、いろいろとあって、頭が全然ダメでした。すいません……。
体調が悪いというのもありましたし、自分としては週刊誌の報道が出てから、転げ落ちていったので、あの場所で、自分の一番、輝いている瞬間を見るのか……という気持ちもあったり。とにかく、心がやられていました」
吐き出される言葉を聞いていて、あの無表情の裏に、どれだけの葛藤が渦巻いていたのかを知った。
そして、「思っていて、言えなかったこともあったんですが……」と、あの1985年の夏について胸の内に残ったものを語り始めた――。
なぜ優勝の瞬間にバットを……。
あの決勝戦について、私は、ずっと知りたかったことがあった。
なぜ、清原和博は、優勝を決めた瞬間にバットを持ったままだったのか――。
最後は自分が打席に立っていたわけではない。それなのに劇的なサヨナラ勝ちで、仲間と泣きながら抱き合った瞬間もバットを握ったままなのだ。そんな球児は、100回の歴史の中で後にも先にもたった1人だろう。
彼にそうさせたものは何だったのか。それが知りたかった。
そして、清原氏が葛藤しながら、甲子園の英雄たる自分と向き合ったあの日、ようやく、その答えを知ることができた。清原氏にまつわるいろいろなことが腑に落ちる答えだった。