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ブーイング覚悟で選んだ「敗戦策」。
西野監督の決断がもう1戦を生んだ。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2018/06/29 12:45
アトランタ五輪では「1次リーグで2勝したのに決勝Tへ行けない」という史上初の事例となった西野ジャパン。22年後、西野監督は借りを返した。
旧西ドイツがブーイングを浴びた日。
1982年のスペイン大会で、旧西ドイツとオーストリアが激しいブーイングを浴びたことがあった。
旧西ドイツが前半10分にリードすると、試合はそこから膠着状態となる。どちらのチームも攻撃の意欲を示さず、スリルとは無縁の時間が流れていく。動きに欠けるゲームに観衆は苛立つ。耳をつんざくようなブーイングがピッチに降り注ぐが、22人の選手たちは意に介さない。試合は1-0のまま終了し、両チームは揃って次のラウンドへ進出した。
当然のことながら、試合後には激しい批判が待っていた。得失点差で3位に転落したアルジェリアが前日に試合を終えていたため、旧西ドイツとオーストリアの思惑はあらかじめ一致していた。旧西ドイツが1-0で勝利する結果は、どちらにとっても許容できるものだった。
ただ、旧西ドイツは汚点を残したまま大会を終えてはいない。イングランド、スペインとの2次リーグを勝ち抜け、準決勝ではフランスと歴史的な死闘を演じた。'82年大会の彼らを象徴する一戦は、オーストリア戦ではないのである。
西野監督の決断は一方的に否定されるものではない。
2018年6月28日のボルゴグラードに話を戻そう。
82分に3人目の交代選手として長谷部誠を投入することで、西野監督は選手たちに「このままでいい」というメッセージを届けた。
コロンビア対セネガル戦の結果には介入できないだけに、自分たちのゲームでは「万が一が起こらない状況」を選ぶ。0-1の敗戦を受け入れ、2位でベスト16へ臨むことを決断したのだ。
試合終了のホイッスルを聞くまで同点ゴールを目ざせば、観衆からブーイングを浴びることはなかった。フェアプレーポイントの優位性が崩れ、セネガルに2位を譲ることになったとしても、美しき敗者、勇敢なサムライとして讃えられたかもしれない。
日本はそうすべきだったのか。誰もが納得する最適解はない。ひとつ言えることがあるとするなら、西野監督の決断は一方的に否定されるものではないということだ。