欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
スペインが誇るマジシャン、イスコ。
2度目の世界一へ魔法の杖を振るう。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2018/06/14 10:30
フィジカルが占める割合が増え続ける現代サッカーで、魔法が生き残るにはイスコレベルの突出度を示す必要がある。
その天才に疑いはないが、出場機会は限定的。
こうなれば、メガクラブが指をくわえて見ているはずもない。2013年6月、マンチェスター・シティなどプレミア勢との競合の末にイスコを手に入れたのは、スペインの巨人、レアル・マドリーだった。
だが、マドリーで過ごしたここまでの5年間が、イスコにとって十分に幸せで、満足できるものだったかどうかは分からない。
「サンティアゴ・ベルナベウに現われたジズー(ジネディーヌ・ジダン)以来の天才」
そう言ってメディアは彼を歓迎したし、実際、ピッチに立てば“マヒア”(魔法)というニックネームに相応しい超絶技巧を次から次へと繰り出した。
しかし、ハイテンポで効率性を重視するマドリーのサッカーの中では、時としてイスコの魔法が邪魔になることもあった。ボールをこねくり回し、プレーテンポを遅らせると、そんな批判も浴びた。なによりアタッカーにワールドクラスが揃うマドリーでは出場機会が限定的で、しばしば移籍志願も口にしている。
「技術的には(現役時代の)私と同じレベルにある」
最大級の賛辞を送ったジダンが、2015-16シーズン途中に監督に就任すると、ギャレス・ベイルを押し退けて一時は不動の地位を築きかけたが、それも“期間限定”でしかなかった。クリスティアーノ・ロナウドやルカ・モドリッチに寄せるほどの信頼を、イスコが得ていたわけではないのだ。
スペイン代表でのプレーは心地良さそう。
チャンピオンズリーグ3連覇など、数々のタイトルには恵まれたが、マドリーでのイスコは決して主役ではなかった。
魔法の杖を思う存分に振り回し、インスピレーションの赴くままキャンバスに画筆を走らせる喜びを味わえるのは、むしろスペイン代表としてプレーしている時だろう。
アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケツ、ダビド・シルバ、チアゴ・アルカンタラ……。同じ絵を描けるボールプレーヤーたちに囲まれて、打てば響くような心地良さを感じながら、イスコが攻撃のタクトを振るっている。
縦に速いマドリーのそれとは対照的に、ポゼッション志向の強いスペイン代表のサッカーが、とにかく性に合うようだ。
「代表チームでは生き生きとプレーできるんだ。ここでは監督からの信頼も感じるしね」