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スペインが誇るマジシャン、イスコ。
2度目の世界一へ魔法の杖を振るう。
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2018/06/14 10:30
フィジカルが占める割合が増え続ける現代サッカーで、魔法が生き残るにはイスコレベルの突出度を示す必要がある。
ここまで20戦無敗のスペインの大黒柱。
指揮官と選手として2013年のU-21欧州選手権をともに制し、強い絆で結ばれたフレン・ロペテギ監督の存在も、代表でのイスコを輝かせている大きな要因だったに違いない。
ロシア・ワールドカップの予選では、同じ組の最大のライバルだったイタリアを絶望の淵に追い込む2ゴール。名手ジャンルイジ・ブッフォンの牙城を破った華麗なFKと利き足ではない左足のミドルもさることながら、パス成功率が驚異の95%と、オーガナイザーとしても圧倒的な存在感を放った。
予選突破の原動力となったイスコは、6-1と圧勝した3月のアルゼンチンとの強化試合でもキャリア初のハットトリックを達成するなど、引き続き好調をキープしている。彼がいなければ、ロペテギ政権発足から20戦無敗でロシアの地を踏むこともなかったはずだ。
重心の低いドリブルで局面を打開し、イニエスタにも匹敵するキープ力でタメを作りつつ、周囲とのコンビネーションも駆使しながら敵の最終ラインを攻略する。
頻繁にボールに触りながらゲームを組み立てるだけでなく、フィニッシュに直結するプレーを効率的かつ安定的に見せられるようになったのは、マドリーでの不遇にも屈せず、生きる術を模索し、自らにマイナーチェンジを施してきた成長の証でもあるだろう。
フィジカル全盛の時代に生きる魔術師。
ユース年代の国際大会や2012年のロンドン五輪も経験してきたとはいえ、フル代表としてこうした大舞台に立つのは、これが初めて。26歳での世界デビューを不安視する向きもあるかもしれない。独特なプレッシャーに圧し潰されてしまわないかと。
けれど、初戦で日本に敗れ、1点も取れずにグループリーグ敗退の屈辱を味わったロンドン五輪の頃のイスコでは、もはやない。ここ数年で精神的にもずいぶんとタフになった。
ワールドカップ開幕を翌日に控えた6月13日、イスコが絶大な信頼を寄せるロペテギ監督が電撃解任された。もちろん、動揺は小さくないだろう。しかも解任の理由は、スペイン・サッカー連盟との契約を延長した直後にもかかわらず、マドリーの次期監督に就任するという背信行為。イスコの心中は複雑に違いない。
それでも──。スペイン代表の中心選手として、戸惑いや不安をピッチに持ち込むわけにはいかない。今の彼ならば、この前代未聞の事態にも立ち向かっていけるはずだ。
フィジカル全盛の時代に生きる稀代のボールマジシャン、イスコ。
彼を生んだマラガの街は、パブロ・ピカソの出生地でもある。かの天才画家はこんな名言を残している。
「明日描く絵が、一番素晴らしい」
イスコが自由に、ボールと戯れる喜びを感じながら、ピッチに7枚の素晴らしい作品を描き終えた時──。スペイン代表は、再び世界の頂点に立っているはずだ。