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「イチロー選手」と「稲葉さん」
球界の上下関係を越えたリスペクト。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNaoya Sanuki
posted2018/05/01 07:00
2009年の第2回WBCにて。稲葉とイチローはチームメイトとして原辰徳監督の下で戦い、世界一に輝いた。
「思い込みって、人間のもっとも悪い習性だと」
言葉は無意識のうちに心を表す。
小さい頃、理論でもって大人をやり込めると、こんなことを言われた覚えはないだろうか。
「子供のくせに――」
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そして、その時に涙をのんだ少年が成長し、社会で年を重ねると、今度は下の世代から第一線からの退場を勧告されるようになる。特にスポーツの現場ではそういうことがある。
つまり「大人のくせに――」である。
この年齢という物差しについては、本誌951号でイチローが石田雄太氏のインタビューに答える中で、こう語っている。
「なんとなく、老人扱いになるんです。あれって怖いですよ。思い込みって、人間のもっとも悪い習性だと思うんです。さまざまな可能性を潰してしまいます。印象って怖い。人の見方って、この人、この年齢なのにこうだとか、いい意味でも悪い意味でも、決めつけてしまうじゃないですか」
人が都合の良い時にだけ振りかざす最終兵器。「年齢」という物差しはなんて理不尽なんだろう。
イチローの言葉を読んでいて、そう思った。
イチロー選手のバブルヘッド人形の思い出。
そういう意味では、稲葉はそれを振りかざさない人間だということだろう。そして、イチローに対する言葉に表れている感情はリスペクトだ。
最近もアメリカの地で、改めてその感情を更新してきたのだという。
「去年、シアトルにテレビ朝日の企画で、キャスターとして行ったんです。(マイアミ・)マーリンズとの試合だったんですが、イチロー選手のバブルヘッド人形が、シアトルのユニホームを着たもの、マイアミのユニホームを着たもの両方あって、2体もらえるということだったんです。ビジター球団の選手がそこまでしてもらうってすごいですよね。そこで取材をさせてもらって、球場で試合も見させていただいた。イチロー選手がスタメンだとわかると球場全体がものすごく盛り上がったんです」