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「イチロー選手」と「稲葉さん」
球界の上下関係を越えたリスペクト。

posted2018/05/01 07:00

 
「イチロー選手」と「稲葉さん」球界の上下関係を越えたリスペクト。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

2009年の第2回WBCにて。稲葉とイチローはチームメイトとして原辰徳監督の下で戦い、世界一に輝いた。

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鈴木忠平(Number編集部)

鈴木忠平(Number編集部)Tadahira Suzuki

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Naoya Sanuki

「イチロー選手のことは侍ジャパンの一員だと思っているんで。どこかのタイミングで来ていただいて、選手に声をかけてほしい」

 侍ジャパン監督・稲葉篤紀は言った。「来ていただいて」と敬語を用いた。

 2人は2009年の第2回WBCをともに戦い、日本を連覇へと導いた。その時に築かれた絆を知る人も多いと思う。私もイチローについて、稲葉さんに聞く、という取材は今回で3度目だった。その中で気付いたのが、冒頭の言葉使いである。

 野球界はタテの社会だ。その象徴として、プロ野球の現場にいると、こんな場面に出くわすことがある。社会人を経て、ある球団に入ってきたばかりの新人選手が、すでにプロで3年やっている高卒の選手にこう言う。

「いろいろ、よろしくな」

 プロのキャリアとしては先輩だが、年齢は下の高卒選手は頭を下げる。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 つまり、年の差が絶対のルールなのだ。

 これが同じ学校や、同郷ともなれば、その物差しはさらに効力を増して、人生どこまで行っても上下関係がついてまわる。

稲葉とイチローは1歳違いで隣町育ち。

 稲葉とイチローはともに愛知県生まれ、隣町で育ち、幼い頃には同じバッティングセンターに通っていた。そして稲葉は中京(現・中京大中京)、イチローは愛工大名電と、野球の名門校に進み、夏の大会で対戦したこともある。

 年齢は稲葉が1歳上、つまり同郷の先輩・後輩である。それなのに、2人はメディアの前では「イチロー選手」「稲葉さん」と呼び合い、リスペクトに満ちたコミュニケーションをしているように見える。プライベートでどうかはわからないが、少なくとも稲葉は今回もその姿勢を崩さなかった。

【次ページ】 「思い込みって、人間のもっとも悪い習性だと」

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