サッカー日本代表 激闘日誌BACK NUMBER
ジャーナリスト金子達仁が目撃した激闘の記憶
text by
金子達仁Tatsuhito Kaneko
photograph byKYODO
posted2018/05/11 10:00
前半20分、北朝鮮のムン・ガムオクをかわし決勝ゴールを決める原博実。
原博実の決勝弾に、もう号泣だった。
正直、忘れられない試合という割に、わたしはこの試合の内容を詳しくは覚えていない。寒かったこと。怖かったこと。グラウンドがグチャグチャだったこと。終始北朝鮮に攻められまくったこと。GK松井清隆の圧倒的な存在感とビッグセーブの数々。
そして、水たまりで止まったボールをかっさらった原博実の決勝弾。
泣いた、なんてもんじゃない。もう号泣だった。バックスタンドに陣取った数少ない日本人サポーター集団は、わたしに限らず、ほとんどの人が雨と涙と鼻水で顔面をグシャグシャにしていた。
サッカーの試合であんなに泣いてしまったのは、後にも先にも、この試合しかない。ジョホールバルの勝利も感動したが、あの会場は寒くなかったし、怖くもなかった。
衣食足りて礼節を知るって、本当だなと思う。
日本代表戦に内容なんて求めていなかった。
あのころのわたしは、日本代表の試合に内容なんて求めていなかった。どんな内容であれ、勝てば全面的に満足で、そもそも、日本代表の試合に内容を求めるという発想自体がナンセンスだとさえ思っていた。
だが、日本代表が強くなるにつれ、そしてわたし自身が世界のサッカーを見聞きするに連れ、考え方はどんどんと変わっていった。あの日の国立で泥臭い日本の勝利に号泣していた大学生は、勝つだけでは満足できなくなったどころか、「こんな勝利は将来のためにならない」などと書きつらねるオッサンになった。
それがいいことなのかどうかはわからない。
なんにせよ、千切りのキャベツにカロリーオフのマヨネーズと減塩のウスターソースをかけ、糖質プリン体オフの発泡酒を飲むたび、わたしはあの試合を思い出す。
ずぶ濡れの身体でとんぼ返りしたスキー場が、極楽のように温かく感じられたことも。