マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
大阪桐蔭の深さを知った草むしり。
彼らの目標は「甲子園」ではない。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/04/11 16:30
日本最高の野球の才能たちが集う大阪桐蔭。その才能たちが油断なく上を目指しているのだから、強いのは必然なのだ。
逸材が謙虚になったら隙はない。
こりゃあまいった、と思った。
逸材たちが謙虚になったら、もう隙はない。
最初の2回で8点。1イニング置いて、さらに4点。試合中盤は、それでもいくらかのめってはいたが、終盤は修正して、合計14点を奪って試合を締めた。
オレがオレが……の“ブンブン丸”の行列にならねばいいが。そんな不安は杞憂に終わり、大阪桐蔭の逸材たちは最後まで地に足の着いた、理にかなったバッティングを続けて、センバツ連覇の栄誉に輝いた。
大阪桐蔭の主力が、なぜ草むしり?
思い出した場面があった。
1月の末に近い頃。ある雑誌の取材で、大阪桐蔭のグラウンドにうかがった時のことだ。
練習たけなわの時間に、主力選手の1人がグラウンドの外にいる。
そこでバットやグラブを手にして特別な練習をしているわけでもなく、体力アップのためのトレーニングをしているわけでもなさそうだ。見える場所まで行ってみたら、彼がしていたのは「草むしり」だった。
正直、驚いた。
“本番”まで2カ月。主力選手なら10分でも15分でも余計に練習していたい、練習してほしい時期、しかも優勝候補筆頭・大阪桐蔭の主力である。
なにが理由なのかは訊かなかったが、この時期に草むしりなら、それ相応のことなのだろう。
見ないふりしてチラチラ見ていると、彼は雑草の生えた場所を、端からきちんとむしっているようだ。そして、その雑草を手押し車に集めると、決まった場所まで運び、そこにきちんと積んでいく。
ペナルティーを課せられた“いや気”や投げやり感がない。むしろ、指示されたことに向き合って、ひたむきにこなしている。丁寧な仕事をしていた。